VAIO Z / VAIO Pro Z開発ストーリー Vol.4:開発者が語る「5G」
モバイルインターネット、10年に1度の技術革新といわれる新規格「5G」。
そのハイスピードは真実なのか、
そしてVAIO Zはそれを引き出せるのか?
PC事業本部エンジニアリング統括部
調達戦略グループキーデバイス調達戦略課
Wireless チーフエンジニア
小川 圭一
PC事業本部エンジニアリング統括部
SW&Solエンジニアリンググループ
システムソフト課
迫田 翼
PC事業本部エンジニアリング統括部
調達戦略グループ
キーデバイス調達戦略課
神田 強
これまでの10倍を超えるハイスピード
5GはVAIO Zにこそ相応しい
−−まずはVAIOが新しい「5G」をどのように評価しているのかを教えてください。
アンテナ設計 小川:5Gについては通信キャリア各社がさまざまなメリットを訴求していますが、中でも「ハイスピード」のインパクトが大きいかなと思っています。VAIOとしては、その点で最高のパフォーマンスを引き出せることを重視しました。
−−テレビCMなどでもハイスピードであることが謳われていますよね。具体的にはどれくらいの速度がでるものなのでしょうか?
小川:モバイルデータ通信は環境によって通信速度が大きく左右されるのですが、開発中のVAIO Zを各通信キャリアの「ラボ」と呼ばれる、条件の整った環境に持ち込んで測定したところ、実効速度で4G/LTEと比べると、およそ10倍のスピードが出ていました。
−−それはすごい! それだけ速いといろいろな作業が捗りそうですね。
小川:特にこのご時世、リモートワークでサイズの大きなデータをやり取りする時などに違いを実感できるはず。こうしたダウンロード・アップロード速度の速さは、ストリーミング中心のスマートフォンよりも、PCの方が活かしやすいと考えています。VAIO Zで、いち早く5G対応を実現したのもそのため。フラッグシップモバイルというVAIO Zのコンセプトを考えると、やはり5G対応は外せませんでした。
−−では、それを踏まえた上で、VAIOを5G対応にするためにどんなチャレンジがあったのかというお話を聞かせてください。
小川:VAIOではこれまで2本のアンテナでデータを送受信する、2×2(ツー・バイ・ツー)アンテナを採用していました。しかし、VAIO Zでは5Gに対応するため、アンテナの本数を4本にした4×4(フォー・バイ・フォー)アンテナを採用する必要がありました。また、通信モジュールも全く新しいものに変わるため、その設計や動作の検証に膨大な時間がかかっています。
−−大きくアンテナ回りとモジュール回りに苦難があったと言うことですね。
小川:そうですね。
−−ではまず、アンテナの方から話を聞かせてください。新しい4×4アンテナのメリットについてもう少し詳しく教えていただけますか?
小川:アンテナの本数が増えることで通信速度が向上します。高速道路のレーンの数が2本から4本に増えるようなものと考えていただけるとイメージしやすいと思います。
−−なるほど。ただし、その分、アンテナの本数が増えるわけですよね。
小川:その通りです。ちなみに現在のVAIOはアンテナをディスプレイ部上端のカメラの左右脇にそれぞれ配置しているのですが、追加のアンテナはここから少し離したところに配置しなければなりません。
−−それはなぜですか?
小川:4×4アンテナの特性を最大限に引き出すためにはアンテナ同士がある程度離れていなければならないからです。少し技術的な話になりますが、アンテナの距離が近すぎると接続した基地局に対して通信の時間差が生まれず、基地局がそれぞれのアンテナを個別に認識できなくなってしまいます。
−−ではどこに追加のアンテナを置いたのでしょうか?
小川:今回はパームレストの裏側に配置しています。ただ、実はアンテナを下側に配置するというのはあまりやりたくないことでもありました。
−−どういうことでしょう?
小川:VAIOが長らく高いところにアンテナを配置することにこだわっていた理由の1つでもあるのですが、机面に近いところにアンテナを配置すると、机の材質が金属などだった場合などに悪影響を受けて通信速度が落ちてしまうんです。しかもVAIO Zはパームレストと底面パネルに電波を通しづらいカーボンを採用しているので、アンテナを置くならその部分を樹脂パーツにしなければなりません。せっかく美しく仕上がったボディに切り欠きを作るのにはかなり抵抗がありました。
−−この2つの問題をどのようにして解決したのでしょうか?
小川:まず、机の影響を最小限に抑えるため、アンテナの向きを上下逆にしています。普通はグランド(シグナルグランド:信号用の基準電位を得るための金属箔)が下にあってアンテナは上を向いているのですが、VAIO Zではこの構造を逆転させてグランドになるアルミ箔をパームレスト裏に貼り付け(写真指さし位置)、そこから下に向かってアンテナが伸びるかたちにしました。
小川:こうすることでカーボンの切り欠きを底面側にできるというメリットも大きかったですね。また、VAIO Zは利用時に底面が奥に向かって持ち上がるチルトアップヒンジ構造を採用していますから、底面と机面に隙間が生まれ、悪影響を受けにくくなります。
ちなみにアンテナ位置に関しては、パームレストの裏ではなく、ヒンジ部分にするという手法もあります。ただ、その辺りはPC全体の中でも特にノイズの多いところですので、通信速度を重視する以上、VAIOとしてはそこに配置するという選択はありませんでした。もちろん、パームレスト裏に配置するにしても、ノイズを遮蔽するため、さまざまな構造上の工夫を施しています。
−−そして配置しているアンテナなのですが、5Gのアンテナは4G/LTEのものとは違っているのでしょうか? VAIO Zでは5Gエリア外で4G/LTEでの通信も行えますが、兼用できるものなのですか?
小川:兼用というか延長と考えています。アンテナの大きさは、どの範囲の周波数に共振させるかということに左右されるのですが、5Gでは3.6GHz~6GHz*という、4G(700MHz~3.6GHz)と比べてかなり高いところの周波数帯を使います。そのため、従来のVAIOに搭載されていたアンテナよりもかなり大きいものになってしまいました。具体的には従来モデル(VAIO SX14)が高さ約7mmであったのに対し、VAIO Zのアンテナは高さ約9mmになっています。ちなみにこれは、VAIOがスリムベゼルを採用する前までと同じ高さ。しかし、ベゼル回りをカーボン化することで強度を高めているVAIO Zではベゼルの厚みを変えることなく、この大きさのアンテナを内蔵することができました。
* Sub6で利用する周波数帯域。
−−こんなところにもフルカーボンボディの恩恵があるのですね。
小川:なお、今回、アンテナが5G用の周波数帯に対応したことで、4G/LTEに関しても従来より多くのバンドに対応することができています。CA(キャリア・アグリゲーション)で使われるバンドも含まれていますので、地域によっては、従来の4G/LTEと比べ、通信速度UPの恩恵を得られるかもしれません。
地道に、ひたすら実直に性能を引き出す
−−5Gモジュール搭載についても、どのような難しさがあったのかを聞かせてください。
電気設計 神田:今回、ハードウェアの面で一番大変だったのは、5G自体がまだ新しい技術ということで、VAIO Zの開発当初はまだ5Gモジュール自体ができあがっていなかったことです。制御の仕様が固まっていないような段階からサプライヤーと連携して開発を進めていかねばならならないのが難しかったですね。加えて、今回のモジュールから内部の接続インターフェイスをUSBからより高速・低消費電力なPCI Expressにすることになり、その仕様変更の対応にも手間取りました。
−−何もかもが新しく、これまでのノウハウが活かしにくい状況で開発していかねばならなかったのですね。ちなみに、5Gモジュールはどこに配置されているのですか?
神田:本体中央あたり、右側の空冷ファンの隣です。5Gモジュールは、これまでの4G/LTEモジュールと比べてかなり大きな熱を発するため、専用のヒートパイプを這わせて空冷ファンで放熱する必要があり、この場所に置くことになりました。
−−ヒートパイプで冷やさねばならないほど発熱するんですね!
神田:開発当初は消費電力や発熱の情報がなかったので、従来と同じくらいの感覚でいたのですが、仕様が具体化していく中で消費電力が3倍くらいあることがわかりまして……。通信モジュールは温度が上がりすぎると、発熱を抑えるためにパフォーマンスを落としてしまうので、その状態に陥るのを防ぎ、常に5Gならではの高速通信を維持するために、急遽設計を変更し、ヒートパイプを追加しましています。これも今回、大変だったことの1つですね。
小川:ちなみに、その発熱の検証・対策のために、実際に5Gで大量の通信を行い、設計を詰めていったのですが、少しやりすぎてしまったようで、後日、通信キャリア側の担当者から「2日で100GB以上も通信していましたが、大丈夫ですか?」と心配されてしまいました(笑)。
−−そのほか、5Gモジュールから最高のパフォーマンスを引き出すためにどのような苦労があったのか、もし何かありましたら聞かせてください。
ソフトウェア設計 迫田:どんなに熱対策をしっかり施しても、5Gモジュール自体の動作が不安定なのでは意味がありません。5Gモジュールを安定して動作させるためのソフトウェア、ファームウェアの作り込みも大変でした。最初のころはハードウェア同様、ソフトウェアの仕様もきちんと定まっていなかったので、5Gモジュールが突然認識されなくなるなんてこともあったんですよ。
また、その原因を究明しようにもデバッグが非常に困難で……。というのも、今回の5Gモジュールの接続インターフェイスがPCI Expressになったことで、従来の解析ツールでは取れる情報がとても少なくなってしまったんですね。そこで新しい解析ツールを試したり、電気的な動きと解析ツールの結果をリンクさせて状況を類推するなど、これまでやっていない解析方法にチャレンジし、安定して動作しますと言えるレベルに持ってくることができました。
−−具体的にどんなことをして詰めていったんですか?
迫田:ソフトウェアの作業というのは非常に地味な作業の積み重ねでして、何かすごいブレイクスルーがあって一気に良くなるということはほとんどないんですよね……(苦笑)。
−−とにかく地味な作業の積み重ねだと。
小川:ただ、そのためのフィールドテストは今回もかなりしっかりやりました。従来モデルまでは、通信しながらVAIO本社のある長野県安曇野市から東京まで中央本線で行って、そこから新幹線で大阪まで行って、そこからまた戻ってくるというテストをバッテリーの検証も兼ねてやっているのですが、今回は東京、名古屋、大阪の3大都市での5Gフィールドテストを現在進行形で実施中です。
迫田:また、安曇野・東京間については4G/LTEでのテストも実施。今回は世の中の状況も踏まえ、自動車に3、4台のVAIO Zを積み込んで、道中、きちんと安定して通信が行えているかを検証しました。また、東京では通信キャリアのラボだけでなく、実際に5Gの商用サービスが提供されているお台場エリアを訪問し、移動時に基地局を切り換える「ハンドオーバー」という処理が途切れることなく行えているかもチェックしています。小川に自動車を運転してもらい、PC画面を凝視しながら3~4時間、お台場をグルグル回り続けたのはなかなかしんどい作業でした(笑)。
−−理論上繫がる、ではなく、実際にきちんと繫がることを確認してきたわけですね。
迫田:はい。また、このテストでもう一つ重要なのは、繫がらなかった時の原因をしっかり究明すること。5Gモジュールが通信できていなかったのか、5Gモジュールは通信できていたが、OSにデータを渡せていなかったのか、そういうことをしっかり確認しなければなりません。そのため、モジュールのメーカーから、モジュールに直接アクセスして内部の情報を引き出せるツールをもらい、それを組み込む形で開発を進めています。
5Gを使ったら、
もう4G/LTEには戻れない
−−そのほか、通信機能回りで何か大きな取り組みがありましたら教えてください。
小川:VAIO Zではなく、VAIOの設備の更新ですが、社内のアンテナ/無線性能評価システムを5G対応にアップデートしています。今、お話ししたフィールドテストも大事なのですが、通信キャリアと通信性能に関するやりとりをする際は、専用のシステムできちんと定量的に測定した数値が必要になります。
小川:この数値は、外部のラボでも測定できるのですが、そのつど予約して、本体を持ち込まなければなりません。VAIOは、開発しながら、アンテナを調整しながら細かく性能を詰めていくために、高価な機材ではあるのですが、あえてこれを社内に持つようにしています。
−−最後にそれぞれの立場から、新しいVAIO Zの通信機能について、一言ずつコメントをいただけますか?
神田:今回、実際に5Gを検証する中で、一足早く、その速さを実感させていただきました。本当に驚くほど速く、それこそオフィスや自宅のWi-Fiなどよりも速いので、ぜひ、VAIO Zでは5G対応モデルを選んでいただき、その速さを体験してみていただきたいですね。
迫田:5Gで通信したいのなら、すでに普及が始まっている5G対応スマートフォンでテザリングすればいいじゃないかという声もありますが、やはりそこにはロスが発生します。5Gならではのハイスピードで通信したいという方には、5G通信機能を内蔵したVAIO Zがおすすめです。
小川:冒頭でお話しした大容量データの送受信などのほか、Web会議などでも違いを実感していただけるはず。実は今回のフィールドテスト時にも、VAIO Zの試作機を使って、移動しながら東京と安曇野メンバーとのWeb会議などもやったりしました(笑)。本当に驚くほど快適で、一度使ったらもう4G/LTEには戻れないと思ってしまうほどでした。
今はまだエリアが限定的ですが、かつての4G/LTEがそうであったよう、5Gもいずれ当たり前のものになるでしょう。ですので、マシンを長く愛用していただくためにも、VAIO Zで今から5G対応しておくことには意味があると考えています。
2021年5月27日 VAIO Pro Z発表にあたり、見出しを修正いたしました。
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