VAIO SX12・SX14 / VAIO Pro PJ・Pro PK(2021年10月発表モデル)開発ストーリー Vol.2:開発者が語る「パフォーマンス」
連続30時間駆動のロングバッテリーライフや、最新世代CPUのパフォーマンスを限界まで引き出す高度な熱設計など、従来モデルから大きく進化したパフォーマンス、その秘密に迫る。
テクノロジーセンター
プロジェクトリーダー課
プロジェクトリーダー
江口 修司
テクノロジーセンター
PCシステム設計部 システム設計課
チーフサーマルエンジニア
久富 寛
テクノロジーセンター
PCシステム設計部 システム設計課
エレクトリカル プロジェクトリーダー
平加 憲作
本当の意味で“丸一日以上使える”スタミナを目指して
−−まずは新しいVAIO SX12・SX14 / VAIO Pro PJ・Pro PK(以下、VAIO SX12・VAIO SX14)で実現した、連続30時間のロングバッテリーライフについて聞かせてください。そもそも従来モデルでも充分な長時間駆動を実現できていたと思うのですが、さらにそれを伸ばそうと考えたのはなぜなのでしょうか?
プロジェクトリーダー 江口:理由は大きく2つあります。まず1つが時代の変化です。新型コロナウイルスの影響によってオフィスワーク前提であったものがテレワークとオフィスワークのハイブリッド型ワークスタイルに変化するなど、これまでよりも幅広い職種でモビリティが重視されています。自宅で使う場合もリビングやお庭など、デスク以外の場所で作業したいというニーズがあり、中にはあえてアウトドアで仕事するという人もいらっしゃいます。
−−リゾート地や自然の中で働く「ワーケーション」も流行っていますよね。自宅で作業するにしてもせめて色々な場所に移動して気分転換したいという気持ちは分かります。
江口:そうなると電源をどこから取るのかというのが重要になります。そこで今回、新しいVAIO SX12・VAIO SX14では最大約30時間という長時間駆動を実現しています。まず分かりやすい指標として「丸一日=24時間」があり、それをさらに上回る数値を目指しました。
−−最大約30時間駆動を実現するためにどういったことをやっているのかを教えてください。
江口:フラッグシップモバイルのVAIO Zのために新開発した53Whの高容量バッテリーと同じものをVAIO SX12・VAIO SX14に搭載しました。初代VAIO SX14(2019年1月発表)が35Wh、先代VAIO SX14(2020年10月発表)が43Whなので、それと比べてかなり大きなものを載せたことになります。もちろんその分、重量も重くなってしまうのですが、他の部分を軽量化することで最終的な総重量を増やすことなくバッテリー駆動時間だけを延ばしています。
−−従来モデルよりも20%以上大きなバッテリーを搭載して重量据え置きというのはすごいですね。バッテリー駆動時間を延ばそうと考えたもう1つの理由についても聞かせてください。
江口:業界標準の測定法(JEITAバッテリー動作時間測定法 Ver.2.0)とお客さまの実際の利用時間にかなり大きな乖離があり、それを何とかしたいというのがもう1つの理由です。その点、新しいVAIO SX12・VAIO SX14は、ドキュメント作成やビデオチャットなどといった一般的な使い方の場合で、実測約15.5時間動作することをVAIO社内で確認できています。もちろん使い方によって変わってくる数字ではあるのですが、同条件であれば確実に従来モデルより長くお使いいただけます。
−−実測で15.5時間使えるのであれば、「丸一日以上使える」と言っても言い過ぎではなさそうですね。この長時間駆動を実現するために、高容量バッテリー搭載以外にどういった工夫をしているのかも教えてください。
江口:VAIO ZではCPUを含め、全てのデバイスを必要がない時には低消費電力の状態にすることで全体としての消費電力を低減させていますが、そのノウハウを継承する形で電気設計的な側面からもロングバッテリーライフを実現しました。インターフェイスを2系統のUSB Type-C端子のみに絞り込んだVAIO Zほどではありませんが、レガシー端子をある程度そぎ落としたことも低消費電力化に貢献しています。
−−端子類といえば、今回から充電端子が廃止され、付属ACアダプターがUSB PowerDelivery対応のものになりましたね。
江口:VAIO Zでも採用されている新しいUSB PowerDelivery対応ACアダプターは、従来の40WタイプのACアダプターと比べて、出力が65Wと大きな電力供給能力があり、次にお話しするCPUのパフォーマンスを引き出すという観点からも、こちらを採用しています。従来の充電端子よりもコネクタサイズが小さくなることも薄型化の観点から重要でした。
CPUのポテンシャルを限界まで長く引き出す
−−続いて、新しいVAIO SX12・VAIO SX14のパフォーマンスについて、どのようなやり方で引き出していったのかを聞かせてください。
熱設計 久富:今回のモデルも従来のモデルも「VAIO TruePerformance®」という技術を用いてCPUのパフォーマンスを引き出しているのですが、やり方が少し異なっています。従来のモデルでは内部温度に余裕があるときに引き出す「最大パフォーマンス」などの値を決め打ちにしていたのですが、新しいVAIO SX12・VAIO SX14では、VAIO Z同様、余裕があるうちはパワーを出せるだけ出して、内部温度が一定以上になったらブレーキを踏むような感じでパワーを落としていくというやり方に改めました。
−−よりパワーが引き出せるようになっているんですね。
久富:はい。利用環境にもよりますが、新しいVAIO SX12・VAIO SX14では先代モデルに比べ「最大パフォーマンス」を約1.5倍出せるようになっています。
−−それはすごい! しかし、そのパワーはどれくらいの時間維持できるのですか?
エレクトリカル プロジェクトリーダー 平加:今回特にこだわったのは、ハイパフォーマンスをいかに長く維持するかというところです。CPUのデフォルト設定ではMAXパワーを引き出せるのはせいぜい10〜20秒なのですが、それではあまり意味がありません。そこで新モデルではCPUが発する熱を空冷ファンまで逃がすヒートパイプを2本に増やして効率的に放熱できるようにして、より長時間、ハイパフォーマンスが続くようにしています(写真一番上の細いヒートパイプは電源回路の放熱に使用)。
久富:なお、このヒートパイプですが、構成はVAIO Zとほとんど変わらないものになっています。ただし、VAIO SX12・VAIO SX14には空冷ファンが左側に1基しかありませんので(VAIO Zは左右2基の空冷ファンまでヒートパイプが1本ずつ伸びている構成)、VAIO Zでは右側のファンに向けて伸ばしていたヒートパイプを左側に向けています。
結果として、VAIO Zと比べるとどうしてもハイパフォーマンスの持続時間は短くなってしまうのですが、それでもMAXパワーから少し落ちたパワーが10〜20分ほど維持できるようになりました。
−−それだけ持つのであれば、大抵の用途には充分そうですね。
平加:はい。VAIO SX12・VAIO SX14が想定しているオフィスワークなどには充分な数字だと考えています。
久富:VAIO Zがどこまでも高速に走り続けられる長距離ランナーだとすれば、新しいVAIO SX12・VAIO SX14は中距離ランナーだ、くらいのことは言えるのではないでしょうか。想定されている使い方よりも少し上のパフォーマンスを狙って実現しています。
−−しかし、そこまでのパフォーマンスを引き出すのは大変だったのでは? 過去のVAIOもそうでしたが、やはり地道な改善を積み重ねてここまでたどり着いたという感じなのでしょうね。
久富:……いや? 今回はそこまで特別な工夫はしていないですね。
−−え、そうなんですか?
江口:そういうと手を抜いているように見えてしまうので補足をすると(笑)、このシリーズは、2019年1月発売の初代VAIO SX14の時からかなり攻めた設計を行っており、熱設計の点でも代々新しいことに挑戦してきました。そうした中で我々の中に、どこが熱くなるのか、どうすれば冷えるのかといった知見が蓄積されています。VAIO Zはその集大成とも言える製品で、それをまたVAIO SX12・VAIO SX14に戻してきたのが今回の新モデルなんですよ。これまでの知見とVAIO Zのシャワー効果により、これまでのように重箱の隅をつつくような工夫をしなくても充分なパフォーマンスが引き出せているというわけです。
−−なるほど。
平加:新しいVAIO SX12・VAIO SX14のヒートパイプがVAIO Zとほとんど同じという話をしましたが、それはVAIO Z開発時点で新しいVAIO SX12・VAIO SX14の構想があったから。先ほどお話に出た高容量バッテリーも含め、その時点である程度共通化することを見込んでいたんですよ。
−−新しいVAIO SX12・VAIO SX14には、VAIO Zの高性能・多機能が数多く盛り込まれていますが、内部の設計もVAIO Z譲りなんですね!
久富:はい。ただ、VAIO Z同等のヒートパイプを搭載しているのは、Core i7を搭載した上位モデルのみで、Core i5、Core i3を搭載したモデルについてはヒートパイプは1本に簡略化されています。重量とパフォーマンスをどのようにバランスさせるかを悩みながら、シリーズのコンセプトに沿うようなかたちに落とし込むのが少し大変でした。熱設計担当としては全モデルに最上位モデルのヒートパイプを載せればいいのにと思っていますが(笑)、ヒートパイプだけで重量が倍も違うので仕方ないですね。
江口:VAIO Z譲りという点では、空冷ファンも数は違いますがVAIO Zと同じものを搭載しています。ベンダーさんと密接なやり取りをした上で作られたとても高性能なもので、これも新しいVAIO SX12・VAIO SX14の熱設計向上に大きく貢献しています。
久富:なお、このパワーの制御には第11世代インテル® Core™プロセッサーに搭載されているDTT(Dynamic Tuning Technology)という技術を使っているため、他社からも同様の仕組みを持つ製品が登場しているのですが、DTTの設定には幅があり、それによってどこまでパワーを引き出せるかが変わってきます。その点、VAIOはしっかりとした熱設計を行うことで、この設定を標準よりもかなり高い設定にすることができています。
VAIO Z譲りのハイパフォーマンスを体感してほしい
−−新しいVAIO SX12・VAIO SX14は、VAIO初の「インテル® Evo™プラットフォーム」準拠となりましたが、まずはこれがどういったものなのかを教えてください。
江口:「インテル® Evo™プラットフォーム」は、インテルが定めたPC選びのための新基準と言えます。CPUのパフォーマンスやネットワーク性能、バッテリーライフ、セキュリティー、さらにユーザー体験も含めた幅広い基準があり、それをパスした製品だけが「インテル® Evo™プラットフォーム」準拠*を謳うことができます。
* Core i5以上のプロセッサー、256GB以上のストレージ、Full HD(タッチパネル非対応)のディスプレイ、Windows Hello 顔認証対応カメラ、バックライト搭載のキーボード選択時。
−−「インテル® Evo™プラットフォーム」に準拠するにおいて、最も難しかったのはどういったところなのでしょうか?
江口:新モデルがスペック的に「インテル® Evo™プラットフォーム」の基準をパスできることは分かっていたのですが、ディスプレイ解像度やカメラ解像度など、無数にあるスペックの組み合わせをテストしなければならないのが大変でした。ただ、PCの購入を検討されているお客さまにとってとても参考になる指標ということで、準拠するようにしています。
−−それでは最後に、皆さんから読者へのメッセージをお願いします。
久富:新しいVAIO SX12・VAIO SX14には、フラッグシップモバイルVAIO Zのエッセンスが盛りだくさんに詰め込まれています。バランスの取れたハイパフォーマンスなモバイルノートが必要だという方にお使いいただきたいです。
平加:ほとんど久富に言われてしまいましたが(笑)、新しいVAIO SX12・VAIO SX14は、VAIO Zのエッセンスを取り入れ、従来モデルとは比べものにならないハイパフォーマンスを実現しています。仕事から趣味まで、いろいろなことに使っていただきたいですね。
江口:VAIO Zとの共通性をいろいろお話しましたが、同時にこの製品はVAIO SX12・VAIO SX14を「正当進化」させたモデルでもあります。バッテリーライフとパフォーマンスだけでなく、あらゆる点でVAIO ZとVAIO SX12・VAIO SX14の良いところ取りになっています。バランスのとれたモデルに仕上がりました。
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