INTERVIEW / 清野とおる[VAIOへの“おこだわり”]

SWITCH(2022年9月20日発刊)より転載

2014年にSONYから独立し、今年で25周年を迎えたVAIO。国内メーカーとして良質なPCを生み出してきたVAIOには熱烈なファンも多い。そのひとりである漫画家の清野とおるに、なぜVAIOなのか、その訳を訊いた。

TEXT: ITAKO JUNICHIRO

プロフィール
清野とおる
1980年東京都生まれ。1998年に漫画家デビュー。『東京都北区赤羽』で注目を集め、以来、独自のユーモアと視点で街や人を描く作品を生み出す。現在、コミックDAYSにて『さよならキャンドル』を連載中

赤羽に導かれて

漫画家・清野とおるにとって、そのキャリアのターニングポイントとなったのが2008年より連載を開始した『東京都北区赤羽』という作品だった。本作は、実際に赤羽の街に暮らす清野自身が出会った、奇妙で浮世離れした、しかし愛すべき人々や店、出来事を描いた作品だ。

「実家が赤羽の隣町の板橋区にあり、そこで暮らしながらずっと漫画を描いていました。だけど何度か持たせてもらった連載が鳴かず飛ばずで、このまま実家で燻っていてもしょうがないなという気持ちになり、気分転換も兼ねてひとり暮らしをしてみようと思い立ち、赤羽で暮らし始めました。そこで普通に生活していくうちに、自分が描いている漫画よりも面白い出来事が赤羽の街で巻き起こっていって。最初はこの街の面白さを自分が描いてやろうという自惚にも似た感覚で作品を描き進めていったのですが、今振り返ると、赤羽という街に導かれ、作品を描かされていたんじゃないか、という思いがあります」

『東京都北区赤羽』は連載開始以降、徐々に注目を集め、やがてベストセラーとなり、山田孝之主演でドラマ化までされることになった。そして現在も清野は赤羽に暮らし続けながら、独自の視点で街や人をスケッチしていく多彩な作品を描き続けている。

「いつの間にか僕の作品においては街と人が主なテーマになっていった感じですが、普通のエッセイ漫画の作り方というと、実際に体験した出来事をベースにそれを脚色し、膨らませて作品化していくのが定石だと思うんです。でも赤羽の場合は現実に起きた出来事が強烈過ぎて、漫画で描けないなと思う部分を削ぎ落としたり、濃度を薄めたりして描いていきました。そういう描き方は楽ではあるのですが、あまりに浮世離れした現実と漫画の世界の境目が曖昧になっていき、自分自身が擦り減っていく感覚もありました。今連載中の『さよならキャンドル』という作品は『東京都北区赤羽』を連載中に隣町の十条で出会ったキャンドルというスナックでの体験を元に描いている作品ですが、漫画を描いている時はもちろん、そうでない日常の中でも、もう閉店してなくなってしまったはずのキャンドルの店内に自分がいるような感覚に陥ることがあります」

清野とおる『さよならキャンドル』(講談社)第1巻より

清野の作品を読めば読むほど疑問に思うことがある。一体どうやったらこれほど多種多様な人々と出会い、奇想天外な出来事を体験することができるのだろうかと。清野は言う。

「日頃から漫画のネタになりそうなことが起こると、その状況の中にいる自分自身のことも含めて客観視し、それを後に作品に落とし込んでいくというのが僕の漫画の作り方なのですが、毎日何かネタがないかなと前のめりになって過ごしていても、なかなか面白い出来事は起こってくれないんですよね。素知らぬ顔をしながら『何か面白いことが起きたらいいなあ』なんて感じで自分の生活を続けていく。そんなスタンスでいると思わぬ時に、思わぬ場所で面白い出来事に遭遇するというか。そんなふうにして僕にしか出会えなかった人や街の景色、面白い事件を描いていきたいと思っています」

憧れのノートパソコン

漫画家が作品を描いていく上でとても重要なのが、コマ割りやセリフ、エピソードの流れを落とし込んだ設計図となるネームを作る作業だ。そして清野がネームを作る時に欠かせないのがVAIOのパソコンだという。なぜVAIOなのか。その理由を訊く前に、清野はVAIOとの出会いについて教えてくれた。

「20代の頃、ちょうど2000年代の初めぐらいだったと思うのですが、とてもパソコンに詳しい友人がいて、彼が使っていたノートパソコンがVAIOでした。当時の僕はパソコンに関してはほぼ無知な状態だったのですが、その友人が使っていたこともあり、ノートパソコンを使うならVAIOが一番だ、というふうに思い込んでいて。でもすぐにVAIOを手に入れたわけでもないんです。若かった自分にとっては高級品でしたから、比較的に安く手に入れることのできる別のメーカーのパソコンをまず使い始めたんです。使い勝手はよかったのですが、重量が重く、故障してしまった時に問い合わせたメーカーのカスタマーセンターの対応がとても機械的で残念な気持ちになって。その後、もう一台別のメーカーのものを使い、30歳を過ぎたぐらいの頃に遂にVAIOを購入したんです」

念願だったVAIOを手に入れて立ち上げた時の高揚感は忘れられないと清野は言う。しかし、1年も経たないうちに自身の不注意でパソコンを落としてしまい、故障させてしまう。

「完全に自分の落ち度で故障させてしまったのですが、VAIOのカスタマーセンターに連絡したところ、かつて使っていた別メーカーとは違い、電話もすぐに繋がりましたし、とても優しく丁寧に人間味のある対応をしていただけたんです。そのことにとても感激しました。そんなVAIOであれば自分にとって大切なデータがたくさん入っているパソコンも安心してお預けして修理してもらえる。そう思ったんです」

カスタマーセンターの対応に感銘を受けた清野は、以来、何台か機種を変えながらもずっとVAIOを愛用し続けている。その結果、今では他のパソコンでは替えがきかないと言い切る。

「僕は喫茶店などに出かけてネームを考えるのですが、その時に使うのは絶対にVAIOなんです。長年使っているからキーボードのサイズやタッチする時の感覚が指に染み付いているんですよね。だから脳みそをフル回転させながらネームを考え、思い浮かんだアイデアを時差なくVAIOに打ち込むことができるんです。だから今ではVAIOなら面白いネームが書けるんじゃないかと思っていて。たとえそれが気のせいだとしても、気分て大事じゃないですか。だからVAIOは手放せない相棒ですし、一緒に作品を作っていくクルーだと僕は思っています」

VAIOを愛でながら

10年以上VAIOを使い続ける清野に今回、VAIOの最新モデル2機種を体験してもらった。VAIO SX12はコンパクトなサイズでありながらも長時間駆動を実現させたことで持ち運びに便利なモデル。そしてVAIO SX14は高精細な4Kディスプレイや、デジタイザースタイラス(ペン)の使用も可能なタッチ機能の付いたディスプレイにカスタマイズすることもできるモデルとなっている。

「VAIO SX12は長年僕が愛用してきたVAIOと同じ大きさ、形状だったので違和感なく使うことができました。僕はパソコンでストリートビューを見ながら、いろんな街をバーチャルで旅をしつつお酒を飲むのが好きなのですが、VAIO SX14でストリートビューを見てみたら感動しました。VAIOなので操作性はもちろん自分好みだったのですが、大画面で画質のクオリティがとにかく高く、キレイなんですよね。大袈裟じゃなくこれは魔法なんじゃないかと思いました。それと驚いたのが軽さとキーボードを叩いた時のフィット感です。以前から感じていたことなのですが、VAIOのキーボードのタッチ音はとても静かなんですよね。一つひとつのキーボードに少し窪みがあるから耳障りなノイズが出ないんでしょうね。これなら喫茶店などで夢中で作業していても他のお客さんの迷惑にもならないと思います」

清野とおる『さよならキャンドル』(講談社)第2巻より

さらに清野は、様々な物事に対する人々の“おこだわり”を徹底的に追求した自著『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』と同等の熱量で、自身が感じているVAIOの魅力を教えてくれた。

「僕はVAIOのロゴマークも好きなんです。パソコンを立ち上げた時にまず画面にロゴが出てくるじゃないですか。あの波のような山のようなロゴを見ると、優しく“頑張れよ”とエールを送ってくれている気がするんです。このロゴマークの一番最初のカラーは紫色だったそうなんです。そして現在のVAIOのブランドカラーは戦国時代の武将たちが戦に勝つための験担ぎで甲冑などの色に使っていた勝色を採用されているんですよね。これは僕の密かな夢なのですが、いつかロゴを制作されたデザイナーの方に直筆で“VAIO”とサインをパソコンに入れてもらいたいと思っています(笑)」

最新のVAIOに触れた興奮、そして溢れる愛情を語ってくれた清野。彼にはこれからVAIOを使ってやってみたいことがあるという。

「僕は一カ月のうち一週間ぐらい知らない街を訪れてホテルに泊まりながら仕事をしたり、気になるお店に飲みに行ったりしているのですが、次はVAIO SX14と“二人旅”してみたいなと思っています。VAIO SX14はタッチパネル式でデジタライザースタイラスも使用できるので、気軽にスケッチができるのも良いですし、僕も含め、現在多くの漫画家さんが愛用している漫画の制作ソフトをVAIOのパソコンでスムーズに使うことができるかも試してみたいです。そうしたらVAIOが一台あればほぼほぼ漫画を描き切ることもできるかもしれない。もしそれが現実のものとなれば、とても画期的なことだと思います」

ネーム作業では必ず使用しているという、清野が長年愛用する私物のVAIOノートパソコン
PHOTOGRAPHY: TARUMI KANA

最後にあらためてVAIOが生み出すノートパソコン、そしてVAIOというメーカーに対する思いを清野に訊いた。

「今回最新モデルも体験させていただき、正直、現時点でのVAIOに大きな満足感を抱いているので、もっとこうしてほしいというような要望はありません。僕なんぞが何か言わなくても、予想を遥かに超える素晴らしい製品をVAIOはこれからも作り続けてくださると思っています。僕はいろんなメーカーのパソコンを触ってきたわけでもないですし、パソコンに関する知識があるわけでもない。だから大それたことは言えないんですけども、一度VAIOのノートパソコンに馴染んでしまったら、なかなか他のメーカーのパソコンを使おうという気持ちにはなれないんじゃないかと思います。それは製品の機能だけでなく、アフターサービスの素晴らしさも込みでの僕個人の思いです。それに今はパソコンに限らず様々な分野のものづくりにおいて、海外メーカーの勢いがすごいじゃないですか。そんな中でも、日本のものづくりの繊細さをしっかりと製品に落とし込んでいるVAIOはすごいと思いますし、これからも僕たちの生活がより豊かになるものづくりを続けていっていただけたらと思っています。VAIOならそれが可能だと確信しているので、僕はこれからもVAIOを愛でつつ、そんな未来を楽しみに日々を生きていく所存です」