VAIO SX14・VAIO SX12(2020年1月発売モデル)開発ストーリー Vol.1
新しいVAIO SX12・VAIO SX14のVAIO TruePerformance®は “最大パフォーマンス” もより高く、より長く。
PC事業本部 エンジニアリング統括部
デバイスエンジニアリングGPプロジェクトリーダー課
プロジェクトリーダー
江口 修司
PC事業本部 エンジニアリング統括部
デバイスエンジニアリングGP
電気設計課
チーフ サーマル エンジニア
久富 寛
VAIO TruePerformance®は進化し続ける
−−まずは改めて「VAIO TruePerformance®」とは何なのかを教えてください。
プロジェクトリーダー 江口:「VAIO TruePerformance®」は、2018年1月に発売されたVAIO S11・VAIO S13(およびVAIO Pro PF・VAIO Pro PGシリーズ)から始めている、VAIO独自のチューニング。ベンチマークテストを意識した瞬間的なハイパフォーマンスではなく、実際にお客さまの生産性を向上させるため、“持続可能パフォーマンス”を高いレベルに保つことを目的にしています。その基本的な考え方はこの2年間変わっていません。
−−実際の利用者の声というのは届いているのでしょうか?
江口:身近なところでは、弊社の経理部門の担当者から大きな効果が感じられるという話を聞いています。彼らは日々、Excelなどでものすごく複雑な処理を使っているのですが、これまで数分かかっていたような計算が1分かからず終わるようになった、と。ベンチマークのスコアではなく、実際に使っている人からそう言われるのはうれしいですね。また、お客さまからいただいたアンケートではなんと9割以上のお客さまがVAIOのパフォーマンスに「満足している」との回答をしてくださっています。その上で、6割以上のお客さまがVAIOに「高いパフォーマンス」を期待しているとのことですから、妥協は許されません。「モバイルノートPCで最速を目指してほしい」といったメッセージもたくさんいただいています。
−−さきほど「基本的な考え方はこの2年間変わっていません」とおっしゃっていましたが、2019年1月に発売されたVAIO SX14・VAIO Pro PKでは、“持続可能パフォーマンス”をより高いレベルに保つような改良を行っています(参考記事:開発者が語る「さらに進化したVAIO TruePerformance®」)。今年1月に発売された、第10世代インテル® Core™プロセッサーを搭載した新しいVAIO SX12・VAIO SX14では何か進化している点はないのでしょうか?
江口:実は今回の新モデルでは、ハイパフォーマンスにこだわるお客さま向けの選択肢であるCore i7モデルに関して、これまでとは異なる工夫を行うことで、さらなるハイパフォーマンスを引き出せるようにしました。第10世代のCore i7は6コア/12スレッド駆動するため、そもそもVAIO TruePerformance®との相性が良いのですが、それに加えて、上記コンセプト図で言うところの“最大パフォーマンス”の継続時間をより長く保てるようにしています。
電源の構成を一新することでさらなるハイパフォーマンスを追求
−−これまでのVAIO TruePerformance®は、VAIOならではのサーマルコントロール技術の賜物でしたが、6コアCPU搭載や、“最大パフォーマンス”の持続時間をより長くするといった取り組みにはこれまで以上に徹底した熱対策が必要そうですね。
江口:そうですね、新しいVAIO SX12・VAIO SX14では、これまで以上に徹底した熱対策を行っています。ポイントは大きく3つ。まず1つ目が、電源回路の熱対策。新しいVAIO SX12・VAIO SX14では、電源の構成を大きく変えているのですが、それによって発生する熱の対策にさまざまな工夫を凝らしています。
−−もう少し詳しく教えてください。
江口:これまでのVAIO SX12・VAIO SX14では、ACアダプターの電圧をベースにシステムを構築しており、高負荷作業時にACアダプターだけでは電圧を維持できなくなると、バッテリーからわざわざ昇圧をかけて電力を供給するようにしていました。当然、昇圧開始時にはほんの少しタイムラグが発生し、“最大パフォーマンス”へ影響が出てしまいます。そこで新しいVAIO SX12・VAIO SX14では、メインの電圧をバッテリーの電圧に変えました。ACアダプター駆動時はこれまでとは逆に電圧を落としてシステムに供給するかたちですね。このやり方だと電圧が足りないときにいちいち昇圧する行程を経ずに済むため、必要な電気を速やかに供給することができ、パフォーマンス面にも良い影響があります。ただし、電圧を下げる際の発熱の削減と放熱対策が必要でした。
−−それだけ聞いていると、なぜ最初からそうしなかったのかという気になりますね。何か理由(デメリット)があるのでしょうか?
江口:もちろんデメリットもあります。まず、ACアダプター駆動時は常時バッテリーの電圧まで降圧してシステムに電力を供給することになるため、ロスが発生し、それによる熱が発生してしまいます。実は、こうした仕組みはVAIO S11 (VJS112シリーズ)・VAIO S13 (VJS132シリーズ)の頃から検討していたのですが、その影響が大きかったため断念していました。しかし、その後の研究開発でロスを減らして設計できることが分かったので、今回チャレンジすることにしたのです。
−−なるほど。
熱設計 久富:先ほど江口がお話したよう、新しいVAIO SX12・VAIO SX14ではCPUへの速やかな電力供給が可能になり、瞬間的にパワーをグッと上げられるようになりました。しかし、それは電源にものすごい大きな電流が流れるということ。当然、これまでの熱対策では不十分になりますから、今回、そこにかなり手を入れています。
久富:従来のVAIO SX12・VAIO SX14では、発熱源となる3つの電圧レギュレーターそれぞれにシリコーン製のサーマルパッドを載せ、その上に被せたカンシールドを通じて放熱を行っていました。対して新しいVAIO SX12・VAIO SX14では、サーマルパッドの上にさらに長い(表面積の大きな)サーマルパッドを這わせ、カンシールドの裏側の接触部分にも熱拡散・放熱能力に優れたグラファイトシートを貼ることで、これまで以上に素早く熱を拡散できるようにしています。ちなみに、サーマルパッド自体もより高価な、2.5倍以上の熱伝導率を備えたものになっています。
極太のヒートパイプや新素材パーツの採用で熱を効率的に逃がす
久富:そして第2の工夫が、ボトム裏面側の熱上昇を抑える設計です。新しいVAIO SX12・VAIO SX14では、ここまででもお話したよう、何だかんだで全体的に内部の温度が高くなってしまっており、特にボトム裏面側の熱対策が必要でした。これまで、底面の熱はボトム部裏面側に貼ったアルミシートで横方向に散らしていたのですが、新しいVAIO SX14ではこれをより熱伝導率の高い銅製のシートに、VAIO SX12では銅よりもさらに熱拡散・放出量力に優れたグラファイトシートにしています。
−−VAIO SX14とVAIO SX12で材質を変えているのはなぜですか? やはりVAIO SX12の方がコンパクトで熱がこもりやすいからですか?
久富:VAIO SX12では構造上、VAIO SX14よりも基板が低いところに設置されており熱が伝わりやすいからですね。なお、VAIO SX12ではこれに加え、ボトムケースにスポンジパッドを貼ってボディ内の風の流れをコントロールし、熱源近くを通る風をより多くする工夫を施しています。
久富:そして第3の工夫がヒートパイプの変更ですね。これは見ればすぐにわかると思います。
−−明らかに従来モデルよりも太くなっていますね。これはすごく効きそうです。
久富:今回は“最大パフォーマンス”を瞬間的に出せるように、長く維持できるようにしているため、CPUが出す熱をより多く受け止め、効率的に排出口に吐き出せるよう再設計しています。なお、VAIO SX14ではご覧のようにヒートパイプを太くしているのですが、VAIO SX12ではサイズ的にその余裕がなかったため、これまでアルミ製だった放熱フィンを銅製に変えることで対応しています。
−−こうした数々の工夫によって“最大パフォーマンス”の持続時間はどれくらい変わったのでしょうか?
久富:これは説明するのがとても難しいのですが、指数平均の時定数でいうと28:64……分かりやすく言うと、およそ3倍持続できるようになっています。
新しいVAIO SX12・VAIO SX14で、6コアCPUのフルパワーを満喫してほしい
−−そういえば、今回からパフォーマンスを計測するベンチマークテストを「Cinebench R15」から最新の「Cinebench R20」に変更しましたね。これには何か理由があるのでしょうか?
江口:「Cinebench R20」の登場から時間も経過し、多くの時点・機種での計測値が一般的に蓄積されてきたので、VAIOでも切り替えました。もともと「Cinebench R15」は一つ前のベンチマークテストということもありテスト内容が比較的軽いものでした。そのため本来の売りであった、“持続可能パフォーマンス”に到達する前にテストが終わってしまっていました。その点、「Cinebench R20」はPC全体の時代による処理性能向上に合わせてテスト内容がよりハードに長くなっていますから、“持続可能パフォーマンス”を追い込むベンチマークテストとして実は適しているのです。計測値が一般的に蓄積されてきましたので、「Cinebench R20」でVAIO TruePerformance®による性能の違いをより数値でご確認いただこうと切り替えました。
グラフは新しいVAIO SX12・VAIO SX14(Core i7モデル)におけるVAIO TruePerformance®の効果を、「Cinebench R15」(左)と「Cinebench R20」(右)で計測した結果。テスト負荷が大きく、テスト時間も長い「Cinebench R20」の方が、よりVAIO TruePerfomance®による性能アップの影響を受けている。
−−なるほど。そして実使用の場合は、ベンチマークテストよりもさらに長い時間作業し続けるわけですから、その差はさらに大きくなっていきますよね。
江口:そうですね。
−−最後にVAIO導入を検討している読者の皆さんにメッセージをお願いします。
江口:VAIO SX14は、今回、さらにギリギリまでパフォーマンスを高めたことで、デスクトップの置き換えとまでは言いませんが、負荷の大きな作業を快適にこなしたい、でも持ち運びのしやすさも大事という方に納得していただける製品になっていると思います。ちなみに新しいVAIO SX14のフルHDモデルは液晶パネルを省電力のものに変更しており、これまでと比べて約86%、動作時間が延びています。
VAIO SX12はもちろん、VAIO TruePerformance®によるパフォーマンス向上も売りなのですが、それによって本体重量やバッテリー駆動時間など、モビリティを損なわないように気を使いました。持ち運びが多く出先でガンガン使いたいという人にはこちらがおすすめです。
久富:2年前の初代VAIO TruePerformance®の時から「これ以上は無理」と言い続けているのですが、なんだかんだで3代目となってしまいました。今度こそ、「これ以上は無理」です……たぶん(笑)。
今回、新しいVAIO SX12・VAIO SX14を使ってみて思ったのは、6コア駆動のパフォーマンスの高さ。4コアになった時も思いましたが、今回も改めてそのパフォーマンス向上に感心しました。ぜひ、少しでもハイパフォーマンスなモバイルノートPCが欲しいとお考えの方には6コアのCore i7モデルをご購入いただきたいですね。そのフルパフォーマンスを引き出せるよう設計しましたので、ぜひ。
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