

2014年ソニーから独立し、
法人向けPCビジネスを
中心に成長をつづける「VAIO」。
VAIO代表取締役執行役員社長・山野正樹より、
VAIOのこれまでの歩みや、
昨今のビジネス状況、商品理念や、
行動理念について御紹介いたします。

VAIO代表取締役執行役員社長 山野正樹


ソニーからの独立と、
法人向けハイエンド機種での復活
VAIOの第一章の始まりは今から28年前の1997年。ソニーのパーソナルコンピューター・ブランドとして、軽量・薄型、こだわった音響・画質、洗練されたデザインを強みとしたモバイル・ノートPCを中心に世代を超えて世界中の人々に愛されてきました。

しかし、規模の拡大に伴い、海外メーカーとの価格競争に苦戦。スマートフォンやタブレットの台頭もあり、赤字化。2014年に、ソニーから投資ファンドへ売却され、VAIO株式会社が設立されました。

わが社は北アルプスの麓、長野県安曇野市に本社・工場をおく国内唯一の専業PCメーカーとして、開発から製造、品質保証、カスタマーサービスに至るまで、ものづくりの全機能をここに集結させて、新たにビジネスをスタートしました。VAIO第二章の始まりです。

新生VAIOとして、私たちがまず取り組んだのは「規模の見直し」でした。海外市場からはいったん撤退し、国内の法人向けのノートPC事業に軸足を置くことを決断しました。
ソニー時代のVAIOは個人向けの製品の販売が中心でしたので、法人向けに軸足を置くと言っても、販売実績もノウハウもないところからスタートするのは簡単なことではありません。法人のお客様は最先端の機能や高いスペックより、品質が安定して壊れにくい点を重視します。そこで、わが社も設計段階から大幅な見直しをかけ、何度も改良を重ねながら、費用対効果の面からも自信を持って法人のお客様にお届けできる製品を生み出すことに注力しました。また会社設立当初より、すべてのVAIO PCは「安曇野FINISH®」といって、専任の技術者が1台ずつ仕上げを行い、120項目以上にもおよぶ品質チェックを経て、安曇野工場からお客様のもとへ出荷しています。設立以来、徹底的に品質にこだわり抜き続けてきた、と言っても過言ではありません。

大規模なコスト削減とこのような取組を進めた結果、2016年には黒字化を達成。
2021年3月には、ソニー時代から続くVAIOの象徴的なフラッグシップモバイルPC「VAIO Z」を世に送り出しました。この頃にようやくVAIOの復活の兆しが見えてきましたが、会社としてテイクオフしたと言うには、まだ道半ばでした。


“ハイエンド一辺倒”でなく、
普及価格帯へのラインアップ拡大
私が社長に就任したのは、2021年6月のことでした。この頃には、VAIO復活の手応えを感じつつも、同時に“プレミアムニッチ”な立ち位置に留まることへ、限界を感じていた時期でもありました。
当時、経営は安定していたものの、製品価格の高さがネックとなり、売上は伸び悩んでいました。高スペック・高単価なPCだけを扱っている状態では、エンジニアの自己満足で完結してしまい、販売も伸びません。売上が伸びなければコストは高くなり、袋小路に陥ります。最終的には、長年VAIOを愛してくださっていたファンも離れていき、ブランドそのものを維持できなくなりかねません。
そこで、ハイエンドモデルだけでなく、より手の届きやすい価格帯のモデルを揃える方向へと舵を切ったのです。「1万人に評価されるより、100万人に評価されるVAIOを目指そう」とエンジニアのメンバーを鼓舞しました。
実は、お客さまに「この製品はVAIOだよね」と言ってもらえるような、“VAIOらしさ”を備えるリーズナブルな製品を開発することは、最高の技術を集めて高価な製品を作ることよりもはるかに難しいことです。この大きな挑戦を克服し、2023年6月には、個人向け「VAIO® F14・F16」、法人向け「VAIO® Pro BK・BM」の発売に至ります。これを機に、VAIOは、技術の粋を集めたプレミアムモデルだけではなく、高品質かつ手頃な価格のラインアップを揃え、お客様の幅広いニーズに応えられるようになっていきました。

そして2024年、わが社は設立10周年を迎え、その節目にノジマグループの一員となることが決まりました。この機会をVAIOの第三章の幕開けととらえ、ブランドをより一層大きく成長させることを目指します。
一方で、VAIOの独立性はこれまでどおり尊重されます。社名やブランド、事業方針、本社工場でのものづくりの姿勢など、VAIOがこれまで培ってきたものは一切、変わりません。


「カッコイイ・カシコイ・ホンモノ」
という
VAIO独自の商品理念
私たちは「VAIOらしさとは何か?」ということを、改めて見つめ直し、2023年の春、「カッコイイ(Inspiring)・カシコイ(Ingenious)・ホンモノ(Genuine)」という3つの「商品理念」を明文化しました。これは、VAIOが大切にしてきた想いを今一度言葉にしたものであり、我々の強みと言ってもよいものです。

「カッコイイ」とは、ただ見た目のデザインが洗練されているだけではありません。高級車の価値が、見た目だけなく、走りの質感や高い機能性に支えられているように、VAIOのかっこよさも、細部にわたる機能美から生まれるものです。


「カシコイ」とは、ユーザーの“相棒”としてのPCに求められる“快適さ”を表しています。VAIOは、使う人の生産性を飛躍的に高める存在でなければありません。たとえば、片手で開きやすいヒンジ、角度のつくチルトアップヒンジ機構による快適なタイピング、CPUのバフォーマンスを最大限に引き出す放熱設計、Web会議の音声をクリアにするAIノイズキャンセリング、ユーザーの顔を認識してオートログインする「VAIO User Sensing®」など、PCが賢い相棒になるための工夫はさまざまです。

そして「ホンモノ」とは、高品質であり、「まがい物」ではないことです。その違いを分けるのは、長期間使ったときに価値の劣化がないこと。長期で使用してもパームレストにテカリが目立たなかったり、キートップの文字が剥げなかったりすることが、製品の品質に満足してもらうために必要なことです。また、冒頭でも述べた「安曇野FINISH®」と呼ばれる徹底的な品質管理を行っているからこそ、初期不良率も極めて低くなっています。
VAIOの商品は、常に時代の一歩先を行くもので、商品理念である「カッコイイ」こと、「カシコイ」こと、そして「ホンモノ」であることの3点が揃わなければならないと思っています。その背後にあるのは、私たちの製品が常にお客様に寄り添い、人生の良き相棒として最高のコンピューティング体験をお届けしたいという思いです。VAIOの美しいデザインと質感、高い性能と快適な操作性、そして長く使えば使うほど感じる品質に対するこだわりと安心感・・・それらをもとにお客様がさまざまなことに挑戦していくことができれば、私たちも大変嬉しく思います。


VAIO社員が意識すべき
「行動理念」について
「商品理念」についてご説明しましたが、私たちはより良い企業・キラリと光る会社を目指すために2023年に「行動理念」も定めました。
理念とは「ある物事に関して、こうあるべきだという根本的な考え方」を指します。VAIOは何のために存在していて、社員はどのように考え行動していけばよいのか――こうした方向性が明文化されていることで、組織の一体感は高まり、チームとしての成果も出しやすくなるでしょう。
そこで我々は、先に述べた「商品理念」に加えて、VAIOが長年大切にしてきた価値観をもとに、5つの「行動理念」を改めて明確にしました。具体的には(1)誠実、(2)敬意、(3)自由闊達、(4)プロフェッショナル、(5)ワンチームです。
常に誠実に行動し、社内外のあらゆる人に敬意を持って接する。既成概念に囚われず自由闊達に新たなことに挑戦し、一人ひとりがプロの誇りと責任を持って業務に取り組む。そして、チーム一丸となって最大の価値を発揮できるように努める。
こうした行動規範になることを意図しています。
もちろん、どれも当たり前のことですが、現実にはすべての人間がこれらを完璧に実践できているとは限らないものです。たとえば、「誠実」な人柄であっても、既存の枠に囚われて自由な発想を持ち合わせていない人もいるでしょう。社員自身がこうした行動理念に対して、改めて自己評価をすることで、内省から成長への足掛かりを得られるはずです。
このように明文化した「行動理念」を形式知として会社に根付かせていくことは、VAIOがさらに先へと歩を勧めるうえで、欠かせないことのひとつだと考えています。


法人売上が9割を占めるようになるなかで
意識してきたこと
さて、法人のお客様との関係やアプローチについてもお話したいと思います。
私が社⻑になった頃、VAIOの製品は、法⼈市場に求められる堅牢性や品質を⼗分に備えていたにもかかわらず、それをアピールしきれていないように感じていました。
そこで、ディストリビューターや特約店との関係構築に注⼒し、VAIOの製品をお客様にご提案して頂けるように努めました。また、エンドユーザーを直接訪問する「ハイタッチ営業」も地道に重ねていきました。お客様に、実際にVAIO PCを触っていただくことで、そのクオリティを知ってもらい、導⼊を検討してもらえる機会を着実に増やしたのです。
VAIOが法⼈市場において成⻑を続けるために、我々は2つの「お客様」を意識してきました。ひとつは、情報システム部⾨に所属するPCの購⼊決定者です。彼らにとって重要なのは、コストパフォーマンス、導⼊のしやすさ、サポート体制の充実といった部分。当然VAIOはこの部分のメリットを備えておりますので、しっかりとアピールします。
そしてもうひとつは、エンドユーザーである従業員です。情報システム部⾨の担当者が製品メリットに納得して導⼊したとしても、実際にPCを使う⽅々が満⾜しなければ、企業全体の⽣産性は向上しません。「法⼈」向けの市場ではコストが重視されますが、法⼈ユーザーも突き詰めれば「個⼈」なのです。コストだけを追い求めて、競合他社と価格競争をするのは現実的ではありませんし、エンドユーザー対して優れた体験を提供できることこそが、VAIOならではの価値に繋がると信じています。


わが社設⽴当初に、法⼈市場に舵を切ったことは、間違いなく正解でした。そして、これからの10年は、さらに⾶躍するフェーズになると確信しています。法⼈ビジネスを中⼼に、2022年〜2024年の2年間での売上⾼は約2倍に成⻑。PC市場全体が横ばいのなかで、23年5⽉期・24年5⽉期と2年連続で過去最⾼を更新、10か⽉の変則決算となる25年3⽉期も過去最⾼となることが確実です。

営業拠点も東京だけでなく、⼤阪・名古屋・福岡へと拡⼤。開発拠点は安曇野に加え、⽴川にも拡⼤しています。そして2025年4⽉に、安曇野だけでなく東京にも本社を置く⼆本社制をとることとなりました。東京は日本のビジネスの中心です。これによりVAIOは全国区の会社になり、より多くのお客様にPCをお届けしていきたいと考えています。



今後のビジネスの
成長への糸口
このようにVAIOは、法人向け市場を中心に着実に成長してきましたが、まだまだ開拓の余地はあると思っています。
外部調査で、企業の情報システム担当者に対して「ビジネスPCのブランドを3つ挙げてください」と質問したところ、VAIOを挙げてくれたのはわずか4%でした。つまり、PC調達の意思決定権がある方の25人に1人しかVAIOを思い浮べていないのです。これは、国内法人市場におけるVAIOのシェアとほぼ同じ。ブランドの認知度が、そのまま市場シェアに反映されている状況です。
一方でNPS(ネット・プロモーター・スコア:自分が使っている製品を他人に勧めたいかを示す指標)については、VAIOはWindows PCの中でトップでした。これは、VAIOの法人PCを知っている方は、VAIOを高く評価してくださっていることを意味します。
法人向けPCとしてのVAIOの認知度を上げることができれば、さらなる成長に繋がる可能性が高いのです。また、法人市場でVAIOのファンが増えれば、最終的に個人市場での拡大にも繋がります。
たとえば、会社でVAIOを使っている方が、家族にもVAIOを勧めるくださることがあるからです。法人市場を基盤としながら、個人市場にも広げていくことで、VAIOの認知度をさらに高めていけると考えています。
また、PCだけでなく、PCを取り巻く周辺機器やサービスにも注力していきます。ここには「PCを中心にした執務環境をより快適なものにする」という想いがあります。2024年7月に発売した世界最軽量*のモバイルディスプレイ「VAIO Vision+®」のように、お客様に快適さを提供できる製品を増やしていこうと決意しています。
「Made in Japan」の価値は、改めて海外でも十分に訴求できると信じています。VAIO品質の高さを武器に、改めてアメリカや、中国、アジア市場への展開も進めていき、海外でも「カッコイイ・カシコイ・ホンモノ」というVAIOを知るファンを増やしていく。これも今後の目標のひとつです。
*14.0型ワイド以上のモバイルディスプレイにおいて。
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