VAIO × MEDIA

VAIOブランドを支える
安曇野FINISHの秘密に迫る

株式会社アスキー・メディアワークス Ascii.jp ビジネス (2017年06月26日)より転載
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「安曇野FINISH」を始めとした、VAIOのものづくりに対する取り組みを取材する旅の第2弾。前回は、高品質を保つ秘密を見てきたが、今回は安曇野工場で唯一基板から生産しているVAIO Zの製造工程と、「安曇野FINISH」というブランドを浸透させた、全製品の検査工程を取材した。

VAIO Zのメインボード製作で見えた品質の高さ

まず通されたのが、VAIO Zの心臓部である、メイン基板を製作する「実装」と呼ばれる工程だ。前回取材した品質検査室と同じフロアにあり、すぐに行き来できる距離にある。カスタマーサポートと設計は工場の2階にあり、4つの部隊が1つ屋根の下にあることで、ユーザーからの意見を真摯に受け止め、改善し、デザイン性と堅牢性、使い勝手、高品質を併せ持った製品づくりを目指している。

実装の工程を説明していただいた技術&製造部 製造課の中村康春さん。

この工程では、プリント配線板に部品のはんだ付けを行なっている。安曇野工場では、ソニー時代からモビリティの高い高密度の基板を製作してきたという。今回見学したのはVAIO Zの製作。唯一日本国内で製作、組み立てられているVAIO製品だ。VAIO Zのメインボードは、だいたい1300点の部品が搭載されていて、裏側の面は、高さ制限があって、小さい背の低い部品。表側はCPUやメモリーといった大きな部品が搭載されている。

使用している部品がまた小さい。「0603」と呼ばれる長辺が0.6mm、短辺が0.3mmの抵抗やコンデンサーで、VAIOのPC製品には、ミニマムサイズで搭載しているそうだ。このサイズだと人の手で扱うのは不可能だろう。世の中的には「0402」と呼ばれる長辺0.4mm、短辺0.2mmの部品が最小とのこと。ただ、まだコストが高いためVAIOでは使用しておらず、スマホやモジュール基板で一部使っている程度。ライン自体は対応しているので、今後コストが下がり、より高密度を求められる製品になったら採用されるだろう。

VAIO Zのメインボード。小さい白い点が見えるが、これが「0603」部品。

ここでは、生産の効率とコストを考え、基板をキャリアに2つ乗せてラインへ流すことを採用している。「アルミのキャリアに乗せて流すことで、製品に必要ない基板部分をなくすことができ、その分コストが下げられます。基板は12層構造で、この層が多いほど、単位面積あたりのコストが高くなるので、できるだけ小さくしたいのです。また、熱をかけてはんだを溶かしてはんだ付けするため、キャリアに乗せない状態だと、歪んで不安定になってしまい、不良が出やすくなります。それを防ぐためにも、基板を支えることで、品質を安定させようとしています」(中村さん)。VAIO Zのメイン基板はこの方式を採用しているが、すべての基板で採用しているわけではないとのこと。コストとのバランスを考えて決めているそうだ。

アルミのキャリアに2枚基板を乗せてラインへ流している。VAIO Zのメインボード以外にも、外部インターフェースなどの基板やEMS事業による基板製作も行なっている。

基板をキャリアに乗せて、最初の工程は、基板にクリームはんだを塗ること。はんだ付けする部分に穴が空いている「版」があり、それを基板に合わせて印刷することで、はんだが一定量塗られる。クリームはんだは、はんだの粒子と松ヤニを混ぜたもので、この後の工程で熱をかけた際にキレイに固着させるために使用している。

版自体もいろいろあって、狭くなるほど、難易度が上がるそうだ。左は技術&製造部 製造課 課長の塩原雅彦さん。

位置合わせをして、はんだを印刷する。基板が降りたあと、無駄なはんだをクリーニングする。

次の工程では、熱硬化する接着剤を塗布する。基本的には、はんだ付けだけで強度を保っているが、一部強度が足りないものがあるため、一部に接着剤を入れているのだという。このあと、最初の検査がある。「ラインの中には検査工程が3ヵ所あります。最初の検査でクリームはんだと接着剤がキレイにズレなく塗布されているかチェックしています」(中村さん)。

チェックは写真撮影して、神様画像(正しく塗布されている写真)と比較して違いがないか自動的に判断している。

この検査でNGと出されたら、ラインのオペレーターが目視で確認し、再印刷したり部分的に修正したりするそうだ。

検査を通過した基板は、2段階に分けて基板に部品を搭載していく。まずは小さいものから行なう。部品のほとんどはリールの状態で供給されていて、紙テープの上に1つ1つ部品が載っている。それらをノズルで吸着し、基板に貼り付けていく。

リール状で供給されている部品をいくつもセットしている。

装着間違いのないようバーコードでしっかり管理している。

「部品は非常に数多く使っており、バーコードによって管理しています。部品の付け間違いが無いようにしています。CPUなどの大きな部品は2段階目に搭載しますが、大きい部品などは板チョコのような状態で供給されているものもあります」(中村さん)。

一瞬で光っているときに位置確認。4本のノズルが備わっており、同時に装着できるようになっている。

部品を載せたところで、再度検査をする。「まだこの段階では基板にくっついてはいないので、問題があれば固着する前に修理するほうが容易なため、ここでも検査を取り入れています。これはVAIOの特徴で、はんだ付けしたあとにチェックするところは多いと思いますが、その前段階ではあまりやっていないと思います」(中村さん)。きちっと搭載されているか、向きは間違っていないか、神様画像と比較して確認する。かなりシビアなようで、取材中も何度か印字の状態が違うというレベルで弾かれ、ラインのオペレーターがその都度確認していた。

部品を装着した状態で、再度確認。正しい位置に正しい部品があるか、向きはあっているかなどをチェック。

そしていよいよ、はんだ付けだ。最初に塗布したクリームはんだを加熱することで溶かし、固着させるのだが、いろいろと工夫が必要なようだ。「内部は8つのゾーンに分かれていて、それぞれのゾーンに温度設定があります。最初の5つのゾーンで予熱といって基板を温めて、松ヤニを活性化させています。残りの3つのゾーンで、はんだが溶ける温度にして固着させています。中は窒素が充填されていて、はんだ付け時に酸化するのを防いでいます。これは、酸化してしまうと品質が不安定になるためです」(中村さん)。急激に温めると、部品によって温度がばらついてしまうため、全体をゆっくり温めているという。

はんだ付け終了後に3つ目の検査をする。きちんと付いているのか正しい位置にあるか、神様画像と比較して確認。この最終検査だけは厳し目に見ており、NGになったときはラインのオペレーターではなく専任のメンバーが対応しているそうだ。「画像を見ただけでも悪いところがわかります。しっかりと教育したメンバーが携わっており、ラインのオペレーターもNGなら取り置きするようにしています」(中村さん)。

はんだ付け終了後にもう1度検査。しっかりはんだ付けされているか写真による確認をする。

ここまでの検査で、電気的なチェックは一度も行なわれていない。導通チェックは次のアッセンブリ工程(製品の組み立て)で行なう。「基板にはひとつひとつバーコードが付いており、トレーサビリティをきちんと管理しています。時間やラインのオペレーターなど細かく記録されており、完成したものが故障した場合、どこに原因があったのか切り分けられるようになっています」(中村さん)。これは、お客さまから故障として戻ってきた際にも確認できるため、故障の特定や改善にもつながるという。

こうして実装の工程を見てきたが、機械で製作するとはいえ、ラインに携わっている人が非常に少ないことに驚く。「1ラインに1人や3ラインに2人程度でやっています。そのほうが、責任感が生まれてしっかりこなしてくれます」(中村さん)。複数の検査によって不良を極力をなくし、トレーサビリティによって作業方法の問題まで確認。問題があれば改善するという品質管理の徹底ぶりに、VAIOのお客さま重視の姿勢を強く感じた。

ちなみに、取材したのは午後だったが、このとき作っていたのは今朝注文が入ったものだそうだ。「今日オーダーされたものはすぐに作って、翌日アッセンブリ工程へ回して出荷されます。生産台数や生産するものは毎日違いますが、オーダーに対しては、迅速に対応しています」(中村さん)。

人的エラーを極力排除するアッセンブリ工程

続いて通されたのが、アッセンブリ工程、いわゆる組み立て。先ほどの製作した基板とキーボードや液晶などの部品を組み立てて、VAIO Zのクラムシェルモデルとフリップモデルを1つのラインで製作している。

まず前工程として、フリップ部分の組み立てやスタンド部分などを組み立てる。アルミ素材とFPCハーネスを組み込んだり、機構部分をアルミ素材でサンドイッチしたりしているが、通常だとネジで固定したり、両面テープを使ってくっつけている。しかし、VAIO Zでは、剛性を確保するために接着剤を使用している。「両面テープと接着剤とでは、まったく剛性が違います。同じ素材を使用しながら剛性を高めるために、接着剤を使用した加工方法を採用しています」(大西さん)。

アッセンブリ工程を説明していただいた技術&製造部 製造課の大西清二郎さん。手に持っているものは接着剤と両面テープの違いを説明するためのスタンド部品。

実際、サンプルとして両面テープで固定したものと接着剤で固定したものをひねって見たが、接着剤で固定したものはビクともしない。同じ素材でも加工方法によってこれほど差が出るのかと思うほどだ。ただ、接着剤は管理が大変なのであまり使いたくないとのこと。商品化するにあたり、導入初期段階から設計、生産技術メンバーと協議しながら導入しているそうだ。

アッセンブリのラインは、先ほどの実装とは違い、ほとんど人が作業にあたっている。そのため、人的エラーを極力排除するための工夫が随所に散りばめられている。そういった、組み立て作業を行なう際にサポートする専用器具を作るのが、生産技術の人たちだ。

例えば、キーボードフレームとパームレスト部分を接着剤で貼り合わせる際も、機械で適量の接着剤を塗布。位置合わせする専用の機器を使って人の手で貼り合わせている。この器具がないと、微妙なズレが生じてしまい、不良率が高くなってしまう。「試作段階から、そういった器具類を作り検証しているので、量産時にはほとんどトラブルもなく、みなさん作業できています」(大西さん)。

接着剤を塗布する際も、塗布した時間を管理。接着剤が固まる前に貼り付けを完了させる仕組みが取られている。「バーコードで時間を管理し、接着時の問題を排除しています。厳選したメンバーがしっかりやってくれています」(大西さん)。

接着剤の塗布は機械で行なう。塗布が完了するとバーコードが出力され、接着するまでの時間を管理している。

位置合わせは、なかなか難しい。それをサポートする器具が用意されている。

接着時の位置合わせで、位置がわかりづらい場合は、マイクロスコープカメラを取り付けて人間の作業をフォローするようにしている。設計者と生産技術、現場の人の意見を聞いて、しっかり量産できる体制を随時整えている。

フリップ部分の部品は位置合わせが上から見づらいため、マイクロスコープカメラの映像を見ながら調整する。

ほかにもタッチパネルをディスプレーハウジングに貼りつける際、位置がズレないようにする器具や、底面のビスを締める際にほかを傷つけないためのカバーをつけたりと、様々な工夫やそのための器具が用意されていて、スタッフの人たちは難なく作業をこなしていた。いくらサポートする器具があっても、スタッフの職人技には感銘した。

ボトムハウジングをビス止めする工程では、10数本のビスを打つため、傷をつけないようカバーをしている。

組み付けたあとは、正しく動作するかプログラムを実行する。SSDへテストプログラムをインストールし検査。ほかにも、シールドボックスでは無線の検査をしたり、液晶の検査はカラーパターンを撮影し神様画像と比較して確認したりする。キーボードのフィーリングに関しては、人間の感覚が頼りで、スタッフが1キーずつ叩いてチェックするそうだ。

電波の影響を受けないよう、遮断して検査。2台あるのは、フリップ用とクラムシェル用とアンテナの位置が違うため。

液晶の検査をカメラを通じて画像を撮り神様画像と比較。

最後は、OSのインストールやバッテリーの充放電、同梱するACアダプターのチェックを行なっている。1台1台にタグがついており、インストールされるソフトの情報をサーバーからダウンロードし、自動でインストールされる。

OSをインストール。購入者のカスタマイズに応じて、インストールされるソフトもここで一気に行なわれる。

本体に貼るラベルも、製品1台1台違う。このため、見間違い、取り間違いの可能性が高いので、タグのバーコードを読み取ると、貼り付けるラベルが自動で剥離される。ラベルを取ると、貼る位置にLEDを照射して、位置決めもわかるようになっている。これなら、知らない人でもやれそうなくらいだ。そういった工夫をいれながら、いいものを作るために、スタッフの負担を軽くしている。

新製品の箱を開封して、貼られているラベルが少し曲がっているだけでも、心が折れることもある。そこまで注意を払って、作り上げる姿勢は、流石はMade in Japanと言えよう。

貼り付けるシールは、わかりやすいようにタグを読み取ると、必要なものだけ出てきてくれる。

保護フィルムの貼り付けサービスもホコリを遮断し、ズレないよう工夫されている。ローラーで一発で貼るが、熟練したメンバーでないと無理。

安曇野FINISHの重要性を再認識

筆者もVAIO製品を使っていて、安曇野FINISHのカードを持っているが、安曇野FINISHを始めたのはVAIO株式会社になってからである。当初は「ワンストップフィニッシュ」という言葉を使う予定だったが、それを「安曇野FINISH」に変えたそうだ。

基本的にVAIO Z以外の製品は、海外の協力工場で生産し、船便で日本へ送り届けられている。通常なら海外でアッセンブリまで行ない、製品チェック後、日本へ届けられそのまま出荷される。ソニー時代はその手法を取られていたが、VAIO株式会社になり、より初期不良の低減と品質の確保を行なうべく、港に届いた製品を安曇野まで運び、そこで全数チェックしアッセンブリしたあと出荷するという方式に切り替えた。

安曇野FINISHの工程を説明していただいた技術&製造部 製造課の坂本直樹さん。

今回見学したのは、VAIOの11、13、15インチのPCを受け入れているライン。海外協力工場で生産されたものは、箱に詰められた状態でここへ届けられる。「開封後、本体を取り出してまずは外観検査です。この検査は傷やよごれ、すき間など50から60項目あり、認定された人のみが担当しています。ここでNGとなった製品は、協力工場へ戻されます」(坂本さん)。実際にNGとなった製品も見たが、パッと見どこが悪いのかわからないレベル。一部塗装ムラがありNG判定されたものだが、そんな外観の違いも逃さない目をもった担当者がしっかりチェックしているのだ。

まずは外観チェック。普通じゃ気が付かない傷や色ムラなど、厳しい目でチェック。

外観チェック後は、底面のネジを外して内部検査。ここでも30項目近くあるという。チェック後、SSDやTPMなどを取り付けて、もう一度電気的な検査後、キーボードのフィーリングなどもチェックしている。あとは、OSなどをインストールするエージング工程も先ほどと同様。速いものでは1時間、遅くとも3時間で終了するそうだ。

エージング工程。画面が緑色になると作業終了。

インストールまで終わると、梱包の工程だ。ここで、もう一度外観検査を行なう。ここで作業したため、傷などが付いていないかの確認だ。ラベル貼りは、先ほどと同様にタグを読み込むと、必要なラベルにランプが付き、とったラベルの位置をLEDで表示して貼り付ける。最終的にカラバリやキーボードの印字内容の検査を通過し、同梱する付属品は、冊子などの入れる順番が決まっているので、順次ランプが付いてそれを入れていくようになっている。箱詰めしたら、完成登録され出荷される。

同梱するものも、ランプで順次知らせてくれる。

こうして安曇野FINISHの工程を見てきたが、単に外観や中身をチェックするだけでなく、SSDやOSのインストール、シール貼りや付属品の梱包はすべて安曇野で行なっており、検査に次ぐ検査で海外から直送されるより非常に安心感がある。

「かなり手間をかけてやっていることがわかったかと思いますが、僕らのポリシーとして、VAIOロゴの付いた製品は、きちんと安曇野で最終仕上げをしてお客様へ届ける、信頼を得るためにあえて行なっていることです。本来ならやる必要のないこともありますが、それが1つの付加価値になっているので、こうした取材を通してお客さまへ伝わっていけばと思います」(坂本さん)。

VAIOのサイトで安曇野FINISHを紹介するページに坂本さんは登場している。

「安曇野でいいものを作ろうという意識は、ソニー時代から変わっていません。VAIOになってから、より一層強くなり安曇野FINISHによって、修理で戻ってくることが激減していますので、実績としては十分出ていると思います」(塩原さん)。

「ソニー時代には、このように各工程を公開するなんて考えられませんでした。今はEMS事業もあり、アピールの一貫としても公開しています」と語る塩原さん。

高品質を維持する努力。それには製造現場と設計、生産技術が一体となって、常に高水準の製品を組み上げられるようにした、教育と設備の賜物だ。

「生産現場としては、納得できる理由がしっかりあるので、商品化に協力しようという気分になりますね。作業では品質を担保できないとなると、設備を入れたり、設計で改善したり、関係部署全員で協力しながらいいものを作り上げていくと言う感じです。雰囲気はいいですよ」(大西さん)。

お客さまにいい製品を届けたい。そんなVAIOの魂を肌でビンビン感じた。

「熟練者が作っているから大丈夫という意識でいると、気が付きにくい面があります。やりやすさを追求し、作業を安定化させることが品質を確保することにもつながります」と語る大西さん。

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