VAIO × MEDIA
VAIOが品質管理に取り入れた
独自の基準とは?
株式会社アスキー・メディアワークス Ascii.jp ビジネス (2017年06月13日)より転載
※掲載されておりますサービス内容、料金などは、掲載日または更新日時点のものです。
VAIO × MEDIA
株式会社アスキー・メディアワークス Ascii.jp ビジネス (2017年06月13日)より転載
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東京から電車で約2時間。背後に北アルプスの山並みが連なる、長野県安曇野市にVAIOの本社工場がある。VAIOブランドを支える「安曇野FINISH」は、この工場で全製品チェックされ、ユーザーの手元へ届けられることから名付けられたものだ。そんなVAIOの品質管理や製造、チェック体制、キッティングから出荷まで、実際どのように行なわれているのか、今回から3回にわたって紹介する。
新宿から朝7時台の特急あずさに乗り一路安曇野へ。長野県の中部に位置し、松本駅から大糸線に入り豊科駅へ。さらにそこからタクシーで10分ほどのところに、VAIO本社工場がある。1961年に東洋通信工業豊科工場として建造され、1974年にソニーの子会社になってから、オーディオ関連やMSX、NEWSなどを製造。1997年にVAIOのノートPCを製造開始し、2014年にVAIO株式会社になってからも、VAIOの拠点として稼働。今年ソニー時代から数えてVAIOは20周年を迎える。
当日は残念ながら曇り空で、北アルプスの山並みは拝めなかったが、「VAIOの里」の碑を拝みつつ工場内へ通された。工場には、製造や検査、キッティング工程のほか、設計部門や品質管理部門、カスタマーサービス部門などもあり、開発中はもちろん、お客さまからの声に対してもすぐに対応、反映する体制が整っている。
知る人ぞ知る「VAIOの里」の碑。工場の入口にあるので、誰でも記念撮影はできるぞ。
まず、見学したのが品質試験をしている現場だ。ここでは、製品開発時はもちろん、カスタマーサポートに届いた修理依頼製品の検証も兼ねており、VAIO製品の品質維持と進化に欠かせない工程だ。
「設計段階や量産前の段階でのチェックはもちろん、設計の方からこういう試験をやりたいという要望もあります。設計もCS(カスタマーサービス)も品質管理もいるので、密にコミュニケーションをとってチェックできますし、お客さまの修理製品を見てどう治すのか、製造ラインも同じ工場内にあるので、製造の問題だったらどうするのか、瞬時に確認・判断ができます」と語るのは、品質CS部 品質保証課 課長 海口康洋さん。今回いろいろと説明していただいた。
品質CS部 品質保証課 課長 海口康洋さん。普段はあまり見せない試験まで見せてくれた。
まず最初は、温度や湿度を自由に調整できるチャンバーと呼ばれる恒温恒湿室。高い温度から低い温度まで調整できる大きめの部屋が3つ。ほかに小さい部屋が5つ用意されている。大きな部屋では中に人が入って、操作しながらの試験もできるが、室温40度、湿度90%の中での作業は相当つらいという。「昔は、高温時はパンツ一丁に、低温だと防寒着を着て中に入り作業していましたが、人間的に耐えられないということで、外から作業できるようにしました」(海口さん) 。
既製品では、外から作業するとなると壁が邪魔で座って作業するのは辛い。そこで特注でつくったのが出窓。耐熱ガラスだけでも1枚100万円もするもので、これにより窓に開けられた穴から手だけを入れて、座って作業できるようにしている。
出窓を特注で備えたことで、外から手だけを中に入れて、座って作業ができる。これなら手だけが暑かったり寒かったりですむ。
実際、室温40度湿度90%の中に入ったが、じっとしているだけでもかなり辛い。メガネをかけた人なら曇って使いものにならないぐらいだ。これだと、キーボードを叩く操作するだけで、この室内に閉じこもるのは、PCより先に人間が壊れそうだ。ちなみに、この室内で実際に操作して動作させてチェックするという試験は、一般のメーカーではやっていないそうで、この試験工程を説明するとびっくりされるとのこと。また、ノートPCのカタログ値は耐熱温度が35度になっているが、5度のマージンを取って検査しパスするように設計されている。
取材時は室温40度、湿度90%の設定。こんな中で作業していたらたまったものではない。
加湿するために純水を作っている。安曇野の水だと、カルキ(石灰水)の成分が多いので、そのまま加湿してしまうとおかしくなるためだ。
室内はかなり広く、いろんな機材を持ち込んでの作業も可能。「この条件下で、全て動くことの確認作業をします。そのあとに、同じ動作を繰り返して負荷をかけます。それを24時間から48時間かけて行なったあとに、きちんと動作するかを検査。それを繰り返しています。何か問題があれば、設計の人に来てもらって、直るまで繰り返します。試作品が主なので、その段階で直して、同じ条件で繰り返し試験して、クリアできるまでやる。それで初めて製品になるんです」(海口さん)。
恒温恒湿室は、かなり広くて様々な機材を入れて試験ができる。
小さい恒温恒湿室では、高温の層と低温の層とあり、瞬時に温度が変わるようになっている。60度で10分放置したら、-25度で10分放置を繰り返し、金属の伸縮でズレたりしないかを確認している。これは、加速試験の一種で、こうすることで3年経った状態を再現できるという。
そのほかにも振動をかけながら、温度や湿度を調整できる小型の恒温恒湿室もあった。
続いて、落下試験を実演してもらった。最初にセットされたのはVAIO Phone。180cmの高さから落として、きちんと動作するのかチェックするという。これは、耳に当てた状態で落とすことを想定してとのこと。かなり試験を繰り返すため、さすがに外観的は傷だらけになるが、中身が大丈夫であることが重要なところ。落とし方もさまざまな方向から実行し、たとえガラスが割れたとしても飛散しないことを確認。利用者が怪我をしないよう配慮しているそうだ。
落下試験の機械。VAIO Phoneの場合は180cmの高さから落下させる。
さまざまな面や角に当てるよう、直前まで機械とともに自由落下し、床面直前で外れる。
ノートPCの場合は90cmの高さから落下テストを行っている。これは、ワキに抱えている状態を想定。こちらも色んな角度から落としている。角から落とすとさすがにくぼむが、最悪データだけは取り出せるように確保しているという。
ノートPCの場合は、90cmの高さから実施。とても自分のマシンではやりたくない。
「弊社は、落下させる床に鉄板を使っています。他社さんでは板の場合もあるようですが、それでは甘いというのが弊社の考えで、一番硬い鉄板でやっています。また、コンクリートやビニールタイルなどでも試験しています」(海口さん)。もし壊れたときも、設計にちゃんと見てもらって、どこが壊れたのか確認し、改善していくそうだ。
製品の一部や全体に力をかけて、壊れるかどうかを試すのが圧力試験だ。まず見せていただいたのが、VAIO Phoneのテスト。製品の中央1点に荷重をかけて、耐えられるかをチェックする。これはポケットに入れたときを想定してやっているそうだ。
一点を押した場合の圧力試験。指先をイメージして、押す先端は柔らかい素材を使っている。
「何キロでやっているかは秘密ですが、CDケースが割れるぐらいの荷重はかけています。5回繰り返して壊れないことが前提で、基本的には曲がってもダメです」(海口さん)。スマホの場合は、ジーパンのポケットに入れて、尻圧で壊れるケースもあるが、それに耐えられるように設計しているとのことだ。
ノートPCでも同様のことをやっており、指で押した一点集中や手のひらで押した面押しでの試験がある。指先を想定したときは、先端が柔らかいものにしているが、堅い板みたいなもので、広い面をぐっと押し込むこともやっており、さまざまな持ち方を想定して圧をかけているという。
さらに、液晶部分も面で押したり、液晶を閉じたときにペンを挟んだことを想定しての圧力試験も行なっているそうだ。「これは一番痛い試験ですね。オフィスでバインダーのように紙とボールルペンを一緒に挟んで持ち運んだり、なかには、マウスを挟んでカバンの中へしまった人もいるそうです。そんな行為でも耐えられる製品を作っていくことが、メーカーの宿命だと思っています」(海口さん)。パソコンって昔に比べれば確かに壊れにくくなってきたと思うが、メーカーの努力による賜物だったのだ。
今回は急遽太めのボールペンを挟んで試験。普段は太さが決まった棒で試験しているという。ちなみに、このボールペンでも壊れなかった。スゴイ!
先程と同様、最近はパソコンも一般化して精密機械という意識が薄れたためか、慎重に扱わない人が増えているという。ノートPCを机へ置く際、ガンっと叩きつけたりするケースもあり、それに耐えられるようにオリジナルの試験機を作ったそうだ。
落下させて、角だけを当てる試験機。オリジナルの試験機で、5000回も繰り返す。
この機械は5cmの高さから角部分を落下させて、壊れるかどうかチェックするもの。各角を5000回試験し、どのくらいの圧力がかかっているかは、感圧紙を使って調べている。色見本からすると、10キロから50キロぐらいかかっていて、意外と厳しく設計の人にはいやがれる試験だそうだ。
当たる位置に感圧紙をおき、どのくらいの荷重がかかっているか調べる。
「HDD内蔵の製品も試験していて、リード動作時の試験はやっています。さすがにライト動作時は、HDD自体の規格を超えてしまうので、試験していません」(海口さん)。
机の上で、ノートPCを動かして、底面のゴムが剥がれたり、溶けたり、変形したりしないか、こする試験を行なっている。一番滑りにくいマットの上で行ない、キー入力時を想定し、手のひらを乗せた重さとして3kgの鉄アレイを載せて、2500回動かしている。
写真では単にマットの上にノートPCを載せて鉄アレイを置いているだけだが、実際にはこの状態で機械に載せ動かす。
ノートPCは、ほとんどが海外で生産され船積みで日本へ届く。その後もトラックに載せられるため、箱に入れられた状態での運搬も考慮しなければならない。ここでは、中身の入った箱を、面や角から落として中身が大丈夫か確認している。
「いまは、ある程度乱暴に扱ってもなかなか壊れません。ただ、コストダウンをするため、極力小さくし輸送費を減らすことを考える必要があります。そのため小さくなっても壊れない工夫がされています」(海口さん)。
箱のサイズを小さくすることで、パレット積みにも影響があり、いろいろとノウハウがあるそうで、製品だけでなく、梱包にも品質試験がきちんと行われているのは驚いた。
梱包の落下試験。ダンボールのサイズは極力小さくしたいため、中身に衝撃が伝わりにくい構造を研究している。
満員電車のお客さんがノートPCをリュックなどに入れて乗った際、割れたというケースがあり、それに耐えられる製品を目指すべく導入された試験。「満員電車ってどのくらい圧力がかかるか意外とわからないですが、実際に感圧紙をノートPCの間に挟んで、中央線などの満員電車にのって調べた結果、150kg/重以上ということで、その設定で試験をしています」(海口さん)。
圧力だけでなく、電車では振動も加わるため、ランダム にいろんな周波数で揺れるようにして試験をしている。これを1時間ぶっ続けで行ない、試験したあとにきちんと動作することが条件。動かなければパスできないそうだ。発表会でノートPCの上に人が乗るパフォーマンスを見せているが、理論上は150kgの人が乗っても壊れないということになる。
圧力+振動を与え続ける試験。理論上は150Kgの人が乗っても壊れない設計で、これらをパスしないと製品化できない。動作音はかなりうるさい。
先ほどの落下試験と違い、外に衝撃を加えるのではなく、中に衝撃を与えるもの。製品を挟んで、挟んだ機械ごと下に落ちるので、外観は凹むこともなく大丈夫だが、中身に120Gから200Gほどかかるという。作用は正弦波で、圧力が3msかかるようになっている。ほかにも何秒間か作用する矩形波もできる。
「先ほどの落下試験と違い、中身に正確な衝撃を瞬時に加えられるため、故障した場合、同じ条件で再現試験ができるので故障の原因が突き止めやすいんです。試験するたびに違う結果では、OKかも出せなくなります」(海口さん) 。
ACアダプター(コンセント差し込み式)がぶら下がっているのは、どのくらい衝撃を与えるかわかりやすくするため。これが外れるぐらいの衝撃を与えている。
角衝撃試験と同様、オリジナルで開発した、綿ホコリをかける試験。よくある「防塵」というのは粉塵試験で、砂埃での試験になる。国際規格としてあるので、関東ローム層の砂を使ったりするそうだ。しかし、このホコリ試験は、室内を使うことを想定していて、こたつとか寝室とかで使うと出る綿ホコリでの耐性を計測するもの。ノートPCにはファンがついているので、そこから吸い込んだ綿ホコリが詰まってしまうというクレームが来たことから、この試験機を作ったという。「規格品ではホコリを扱ったものは売っていなかったので、ソニー時代から埃試験含めこだわりを持って実施しています。中に入っている綿的なものの成分は秘密ですが、何種類かを混ぜて特注で作っています」(海口さん)。
いろいろな状態で置いて試験し、最後に設計の方と分解して、変なところに詰まっていないか確認しているという。市場からもどってきた製品と見比べて判断した結果、2時間やることで、およそ1年分のホコリを吸い込んだ想定になるそうだ。
「ただし、タバコは無理とのこと。タバコのヤニは詰まってしまうとくっついてしまい、ベトつくため、できれば禁煙ルームで使っていただきたいですね」(海口さん)。ちなみに筆者も飼っている猫の毛はどうかと聞いたところ、短毛なら大丈夫というお墨付きをいただいた。
ホコリを単に舞い上がらせても、隙間に入り込まないそうで、一番上のノズルからエアーを吹き付けることで、穴を塞いだホコリを払い、中に入りやすくしているという。開発には1年を要したそうだ。
キーボード部分は、メーカーが制作しているため、そちらでも打鍵試験はやっているが、製品としてセットした状態でもやらないと意味ないということで、100万回叩いても大丈夫化試験をしている。流石にすべてのキーを試験はしていないが、スペースキーやEnterキー、Fキーなど一番押されるキーを試験しているという。
「この試験機の特徴は、機械自体が持ち運び可能なため、さきほどの恒温恒湿室に持ち込んで試してみたり、ホコリ試験のなかにも入るので、動かしながら試してみたりということもできます。キーボードは100万回叩いても持ちますが、試験機のシリンダーのほうが持たないので絶えず交換してますね」(海口さん)。
1秒間に6回叩く設定なので、100万回というと46時間以上かかる計算になる。強さは調整できるが、強めに叩いていて、エアーではなく、電磁シリンダーを採用している。エアーだとばらつきがあるためダメだそうだ。
電磁シリンダーを利用した打鍵試験機。持ち運びができるサイズなので、恒温恒湿室内やホコリ試験機内に入れて複合試験も可能。写真はVAIO株式会社提供。
ほかにも、漬物石が置いてあり、何に使うのかと思ったら、梱包試験でパレット積みしたとき、一番下の箱に掛かる荷重を考えて箱の上に載せるためだそうだ。保存試験もあり、重しを載せて恒温恒湿室へ入れて、潰れないかどうかを見る。船底は高温多湿になるので、輸送中にも耐えられるようにしているとのことだ。
重しを乗せて、荷重がかかった状態でのテストも実施。あらゆる想定をしている。
また、キートップの印字や塗装などに関しては、部品の段階で、各メーカーと協力して様々な試験を行なっているという。「ヒンジ部分の開閉試験も、部品段階でやるべき試験を行なっているが、ひたすら開閉するという試験はここでやっています。いまは自動できるようになりましたが、以前は、手で開閉試験していたため大変でしたね」(海口さん)。交代で行っていたそうだが、手が腱鞘炎になりそうだ。
いまでも手作業なのが、各ポートの抜き差し試験。これは、薄さとの戦いでもあるので、指し手加圧ももちろんやっているという。「これらの規格はVAIOが独自に設定したものです。PC業界には標準規格のようなものはありません。すべてはお客さまの安全性を考え、データが確実に守られるためのもの。もちろん壊れにくいことも重要です。これらの試験をクリアできなければ、出荷できません」(海口さん)。
VAIOとしては。堅ろう性がいくら高くても分厚かったら意味がない。お客さまが使いたい商品でありながら堅ろう性の高いものを提供し、実使用をイメージして長く快適に使ってもらえるような視点で開発している。最初に話したように、カスタマーサービスも工場内にあるので、毎日お客様の声を聞いているそうだ。その声を聞き、それに耐えられる製品を日々考えて反映しているという。
ソニー時代から変わったことは、対応の素早さだという。「ソニーは大きかったので、改善するとしても数ヵ月後でとか、次のモデルでとか、動きが取れませんでした。VAIO株式会社になり、こじんまりとなったことで、細かいとこまで聞いてもらえるようになりました。そのため同じ製品でもキーボードのフィーリングを替えてみようとか。ちょっとずつ進化している部分もあります」
「大事にしているのは、規格をクリアすると言うのは当たり前で、使い勝手やフィーリングといったお客さまに納得してもらう製品作りをしなければなりません。お客様の声は設計へダイレクトに反映していますので、素早い対応ができていると思っています」(海口さん)。
ソニー時代から知る海口さんは、小さな会社になったことで小回りが効くようになったと語った。
今回取材して感じたのは、想定外のことをされても、それに対して真摯に受け止め、耐えうる製品を開発しているVAIOの心意気だ。「精密機械なんだからそんなことしちゃダメでしょ」と受け流すのではなく、新たなハードルを設けてクリアしてくる。細かい部分に対しても気を配る。そんな姿勢が、VAIOが愛されている理由なのだと思う。
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