開発ストーリー Vol.02 VAIO Fit 「音」と「画」で感性に訴えかける。

VAIOがお勧めするWindows.

  • プロダクトマネージャー(PM) 林 薫 商品ユニット1
  • プロジェクトリーダー(PL) 葛谷 泰幸 商品ユニット1
  • メカプロジェクトリーダー(メカPL)片平 悟  商品ユニット1

エントリークラスのPCを選ぶ人は、音質や画質に、さほど期待はしていないかもしれない。けれど、PCでもできるだけよい音が聴けて、できるだけよい画が見られるということが、性別や年齢、個人用や家族用に関わらず、多くの人に受け入れられる上で、今後、重要になっていくはずだ。リビングで音楽を聴くにも、映画を見るにも、PC一台で事足りれば誰でも嬉しい。だから、音質と画質もかつて目指さなかったレベルまで追求してみよう。それは、VAIOが提供したい“感性的な価値”にもきっと通じる。こうして始まった、VAIOのエントリークラスでは前例のない音質と画質の追求だが、ここで、前述したバッテリーを4セルのシンプルな構成にした挑戦が、効果を発揮する。通常ならバッテリーで占められていたスペースが空いた分、スピーカーの容積を広く取ることができたのだ。VAIO Fitには、L/R(左右に1つずつ)に大型のボックススピーカー(スピーカー自体に筐体を付けて専用の設計をする)と、後方にサブウーファー、計3つのスピーカーが搭載されている。ただし、バッテリーの分が空いたからといって、それだけですべて解決するほど簡単ではない。音量でクリアすべき数値目標としては、はっきりとした基準があり、これまでのこのクラスではなかったほどの高い数値を課していたが、実は、高い数値がどうこうよりも、数値に表れないところの方が難しいのだ。「単に音を大きくすれば数値目標はクリアできるが、その音が心地よい音か、そうでない音かがポイントで、そのためにオーディオ担当たちは苦労していた」(メカ設計 片平)。そのオーディオ担当たちからの要望があり、設計担当の方では限界までボックススピーカーの容量を大きく、スピーカーの径も大きく取れるよう工夫を重ねた。数値上はさしたる差が見られなくても、径が小さいものに比べ大きいものは聴き心地がよく、全体の音質に影響していると、自分たちの耳で何度も検証し、確信していたからだ。「隙間という隙間に容量を取るためにボックススピーカーを拡張して、そんなところまで延ばさなくてもいいのに…という形状をしています」(メカ設計 片平)。音質の追求は、さらに続く。

まさか、“ダンパー”まで付けることになるなんて。

スピーカーの径を大きく取る他にも、音をよくする方法がある。ボックススピーカーを密着させて隙間をつくらないようにしてがちっと固めると、重みのある音がぶれずに美しく響く。しかし、そうすると隙間を埋めた分だけ振動がボディに伝わりやすくなり、ハードディスクに振動が伝わって読み込みエラーなどが起きてしまう。「そこからスペーサーを外していったが、今度は、音が軽くなるなど、狙いとする音質と真逆に振れてしまった。音を維持しつつスピーカーの振動が伝わらないようにすることに、かなり試行錯誤しました」(PL 葛谷)。そこで出てきたのが、ダンパー(ばねやゴムなどを用いて衝撃を弱めたり、振動が伝わるのを止めたりするための装置)を付けるという奥の手だ。「最初、ダンパーまで付けるつもりはありませんでした。でも、最終的に付けると判断したのは、大音量を実現しようとしたら、それだけハードディスクに振動が伝わるのは避けられないので。思い切って付けてしまおうと」(メカ設計 片平)。「ダンパーと簡単に言っても、いくつもの形状、硬度、材質の組み合わせでサンプルをつくり、評価を繰り返しました。効果を追うあまり高い部品になってはだめなので、コストもふまえながらの検討です」(PL 葛谷)。 今までのエントリークラスのPCでは普通、ダンパーを使うことはしていない。ハードディスクのすぐ隣りにスピーカーがいるレイアウトのため、そうせざるをえなかったのだが、思い切ってダンパーを使うことで困難の大部分が乗り越えられた。また、ボックススピーカーの固定方法についても、L/R、サブウーファーの3つのボックススピーカーはどれもネジで3点留めしている。3点で固定すると必ず平面になり、スピーカー自体は歪まない。たとえば、4点で固定した方が安定はするが、取付ボス(ネジ留め用の円筒形の突起)が1個でも高さが違うとスピーカーが捻れてしまうので、ダンパーと組み合わせて絶対3点でしか固定しないと決めて設計を進めた。こうしてVAIO Fitでは、ボックススピーカーの取り付けのバランスに細心の注意を払うこととなった。

探す、選ぶ、試す、で差をつける。

VAIOでは、音質をチェックする際、いくつかの用途に分けて複数のジャンルの曲で試している。詳細はそのときどきの開発モデルによって変わるが、共振するかどうかを測るにはクラシック、スピーカー振動を測るにはロックなどのドンシャリ系、ハードディスクの読み込みエラーや音飛びの評価には広帯域の音が複雑に混じっている曲…といった具合だ。「決定するのはオーディオ担当ですが、私たち設計担当も聴いてみて色々とコメントしました。初めて鳴らしてみたときは、PCでこんな音が出るんだ!と驚きましたね」(メカ設計 片平)。ただ、音質がいいところまで“行き過ぎる”ほど、VAIO Fit全体の完成度が上がるほど、ダンパーで抑えてはいるものの尚、振動がハードディスクに正確に伝わってしまい、読み込みエラーが起きるという悩ましい事態に陥る。「 “行き過ぎない” 音質の見極めを納得いくまで繰り返しました」(PL 葛谷)。一方、画質の追求には、別の困難があった。数多ある標準の液晶パネルの中からVAIOが要求する性能に合致するものを見つけ、それがVAIOの信頼性に耐えうるのかどうかを数週間かけてテストして、何台分も確かめる必要があったのだ。「液晶パネルは調達してくるデバイスであり、圧倒的な差は出せません」(メカ設計 片平)。「たくさんの方に使っていただくには数量を確保する必要があり、複数メーカーの液晶を評価して採用する必要がありましたが、標準の液晶スペックよりもVAIOの要求スペックが高いため、評価でNGが出ると対応に苦労しました。スペック以上の実力を求めているわけですから…」(PL 葛谷)。信頼性を厳しく評価して、標準品でも“上位にある標準品”をうまく探し出す。それも、VAIOがエントリークラスで培ってきた貴重なノウハウである。

(2014年10月6日掲載)

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