上流設計から一貫して取り組む

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VAIOが安曇野で実践する環境と共存したものづくり 後編

サステナブルな社会を目指す潮流が本格化した今、製造業には製品のライフサイクル全般にわたる環境への対応が求められている。VAIOは2014年の設立時から環境との調和を重んじ、誠実にものづくりと向き合ってきた。環境対応と良質なものづくりの両立は簡単ではないが、VAIOはどのようにしてこの難題をクリアしているのか。そこには、全社が一丸となった目線の共有があった。

全社一丸となった
「上流設計」の思想

長野県安曇野市にあるVAIOの本社工場は、紛れもない最先端工場である。ソニー時代からの歴史を振り返るとVAIOをはじめ、AIBOやFeliCa(フェリカ)など、数々の革新的な製品・技術がここから誕生している。

その一方で、自然との共存を決して忘れなかった。地域に根差す企業の責任として環境経営を掲げ、事業活動全般において環境に配慮したものづくりを推進している。

⽔と緑豊かな安曇野に⽴地するVAIOの本社工場

⽔と緑豊かな安曇野に⽴地するVAIOの本社工場

環境配慮型の製造を促進しているのが、機動力の高さだ。安曇野の本社工場には商品企画から設計、品質保証、調達、製造、カスタマーサポート部門まで、ものづくりに携わるすべての部門が集う。こうして各部門が密接に連携し、ワンストップで高品質なPCを製造する体制が築かれた。VAIOではこのワンチーム体制を「上流設計」と名付け、ものづくりの基本思想としている。

上流設計プロセス

製品を開発する際には、各部門のメンバーが意見を出し合う。
企画や設計の段階で十分な議論ができるため、製造段階での設計変更が減り、変更にかかる労力やコストを削減できる

オペレーション本部 技術&製造部 部長の神部隆一氏は「すべての関係部署が最終ゴールを見据えて、初期の設計段階から効率的かつ柔軟な視点で取り組んでいるのが特長です」と語る。

「上流設計によって、VAIOはものづくりに対する目線の共有が徹底しています。その目線が全社を貫き、環境に配慮したものづくりに活かされているのです」と続けるのは、開発本部 プロダクトセンター センター長の黒崎大輔氏だ。

神部 隆一 氏

VAIO
オペレーション本部
技術&製造部 部長
神部 隆一 氏

「そもそも製造業は環境と折り合いをつけて事業を進めていかねばならない宿命を背負っています。そう考えると、VAIOが環境対応に力を入れるのは至極当然のことです。そのうえで、従業員一人ひとりが環境に対してアクションを起こしていきたいとの志を持っていることが我々の強みだと思います」(黒崎氏)

具体的には、環境対応を2階建てのコンセプトで推進している。1階部分はグローバルのさまざまな法規制や数値目標に従ったものづくりを指す。ただし、巨大資本のグローバル企業と比較すれば、1階部分で世界をリードするのは難しい。「代わりにVAIOならではの特色を活かした2階部分にしっかりと取り組んでいます。2階部分とは、一見、二律背反するユーザーのメリットと環境対応を、考え抜いたものづくりを通して両立させることです」と黒崎氏は語る。

2階建てのコンセプトで
独自の環境対応を打ち出す

2階建てのコンセプトを実現するため、VAIOでは2つのアプローチを柱とする。1つ目は製品を通してお客様の環境負荷低減に貢献することだ。VAIOを使えば場所にとらわれない働き方を提供でき、移動をなくすことでCO2削減がもたらされる。また、PC中心の企業活動は確実にペーパーレスへとつながる。

2つ目は長く使える製品をつくることだ。法人向けPCの買い替えサイクルは4年が一般的だが、「仮に4年のサイクルを1年間延ばせばPC生産時の環境負荷は20%削減される計算になる」と黒崎氏は指摘する。

黒崎 大輔 氏

VAIO
開発本部 プロダクトセンター センター長
黒崎 大輔 氏

「これからは環境面はもとより、TCO(Total Cost of Ownership)、つまり初期導入費用だけではなく運用期間中の費用も含めた総コストの観点からも、長期の使用が重視されるようになってくるでしょう。我々が長期の信頼性を担保したものづくりを心がけているのはそのためです」(黒崎氏)

長期間の使用は、VAIOの売り上げを考えればマイナスだと思うかもしれない。だが、この長期信頼性がVAIOの大きな採用決定要因になっている。法人向けに最大5年の「あんしんサポート」を提供しており、仮に過失事故でもサポートが受けられるようにしている。「PCの堅牢性に加え、このサポートが法人のお客様に響いています。イニシャルコストは他社製品より高く見えても、5年間の保証付きで安心して使うことができればトータルコストはむしろ抑えられるからです。それを社内の説得材料にするお客様も少なくありません」(黒崎氏)。

それゆえ、PCの各部には長く使うための工夫が凝らされている。例えば手のひらを置くパームレストには色が剥げにくいアルマイト加工を施したアルミ合金を使い、見た目がきれいな状態で長く利用できるようにした。

キーボードには、文字が消えにくい加工がなされている。文字の部分だけ塗装を乗せて印刷する従来の方法ではなく、逆に全面塗装に対して、文字の部分だけをレーザーで抜いている。文字を塗装しているキートップに比べると遥かに長持ちし、文字の凹凸がなくストレスのない打鍵感を体感できるという。

キーボードの製造工程順に並べてみた。上から、もともとのキーボード、表面塗装したもの、レーザーで文字を刻印したもの、UV塗装によってフィニッシュしたもの

キーボードの製造工程順に並べてみた。上から、もともとのキーボード、表面塗装したもの、
レーザーで文字を刻印したもの、UV塗装によってフィニッシュしたもの

2023年にはバッテリー節約設定を新機能として追加した。独自のアルゴリズムによってCPUを制御することでバッテリーを長持ちさせる仕組みだ。リモートワークでは消費電力が大きいWeb会議が避けられないが、スマートな省電力機能により長時間駆動が可能になり、結果的にはCO2削減にも寄与する。

VAIOならではの環境対策
無塗装樹脂と熱可塑性CFRP

よりプロアクティブな、先を見越した取り組みもある。1つ目が無塗装樹脂だ。塗装は工業用途になくてはならないものだが、一方で温室効果ガス排出増加の原因として懸念されている。世界的に規制が強まる中、VAIOでは着色した樹脂パーツを効果的に使い、無塗装でもデザイン性の高い商品を実現した。

着色した樹脂パーツを使用した「VAIO Pro BK」

着色した樹脂パーツを使用した「VAIO Pro BK」

「すべての塗装をなくすことは無理ですが、可能な限り無塗装を進めていきたい。とはいえ、VAIOの根幹であるデザインも重要です。そこで色に統一感を持たせ、ほかの部材と組み合わせても違和感のないカッコよさを出すことに成功しました。さらに再生プラスチックを利用しているのもポイントです」(黒崎氏)

2つ目がVAIOでは初となる「熱可塑性CFRP(炭素繊維強化プラスチック)」の実用化だ。2024年7月に発売した約325グラムのモバイルディスプレイ「VAIO Vision+(バイオ ビジョンプラス)14P」の本体背面パネルに採用されている。

VAIOのカーボン製造技術を凝縮して生まれた「VAIO Vision+™ 14P」の本体背面パネル

VAIOのカーボン製造技術を凝縮して生まれた「VAIO Vision+ 14P」の本体背面パネル。
2層のカーボンファイバーと1層のポリカーボネートを積層し、熱をかけてプレス成型する。
一体成型は非常にハードルが高く、量産はかなり困難だという

VAIOは2000年代前半からPCの外装部にカーボンを活用してきたパイオニアであり、2021年には当時世界初となる立体成型フルカーボンボディの「VAIO Z」を発表している。ただし、これまで用いられてきたのは一度熱を加えると固化してしまう「熱硬化性CFRP」で、リサイクルが困難という課題があった。

今回採用した熱可塑性CFRPは熱を加えても柔らかい状態に戻せる特性を持ち、リサイクル性が高い利点がある。トレードオフとして加工が難しいという弱点があったが、長年にわたって蓄積したカーボン加工のノウハウを駆使して克服。強度を高めるリブ(突起部)、パーツ同士を組み合わせるボスをカーボンと一体成型することで部品点数の削減、工程数の省略を実現し、環境に優しい素材として確立した。「将来的にはPCへの展開を視野に入れて研究を進めていきたい」と黒崎氏は意欲を見せた。

環境に配慮したPCの選択が
ユーザーにとってもメリットになる

10周年を経て、VAIOは新たなフェーズに突入した。ここまで見てきたように環境配慮のものづくりは日々アップデートされ、持続可能社会における製造業のあり方を体現しているようにも見える。

生産現場を管理する神部氏は「安曇野工場での環境に対する取り組みを1人でも多くの人に知ってほしい。最終的には環境活動をリードする企業になり、地域の人たちから『VAIOが近くにあって良かった』と思われるような存在になりたい」と展望を語った。

今後の企業活動では、ますます環境との向き合い方がステークホルダーから注視されるようになる。その1つとして環境に配慮したPCを選ぶことは、情報システム部門の担当者にとっても説明責任を果たすことにつながると同社では考えている。

「VAIOを選ぶことが、環境に配慮した企業活動を進めるお客様にとってメリットとなるように、これからも製品を磨き上げていきたいと考えています。2階建てのコンセプトを突き詰めることで、環境でもVAIOらしさを打ち出していきたい。お客様にとってもワクワクする魅力が感じられる環境対応の製品を生み出していくことが理想です」(黒崎氏)

環境対応と良質なものづくりの両立をより高い次元で実現するために、VAIOの挑戦は続く。

日経BP Nikkei Business Publications,Inc. 日経クロステック(2024年9月9日)より転載