PC市場が低迷していた中、VAIOが好調だ。直近の2年間で、販売台数と売り上げが約2倍に急伸した。後編も引き続き、代表取締役社長の山野正樹氏とテクノロジーセンター長の巣山剛志氏に登場いただく。2014年にVAIOがソニーから独立した後の方針転換、製品を法人向けに切り替えるために行った設計思想の変革、本社工場における開発体制、ダウンタイムを短縮するユーザーサポート、VAIOを選択した企業の事例などについて聞いた。

設計思想を法人向けに変革
ビジネスの現場で活きる機能性にこだわる

VAIO
代表取締役 執行役員社長
山野 正樹 氏

VAIOは、音や映像を高品質に楽しめるコンシューマー向けのPCとしてスタートした。しかし、2014年にソニーから独立し、ターゲットを国内の法人向け市場に切り替えている。「あらゆる設計思想を、法人市場向けに見直しました。ビジネスシーンで役に立つ機能にこだわっています」と、代表取締役社長の山野正樹氏は語る。

VAIO
代表取締役 執行役員社長
山野 正樹 氏

その表れの1つが、拡張性だ。独立当時のモデル「VAIO Pro 11/13」の側面パネルにはHDMIとUSB、ステレオ音声ジャックしかなかった。その後、VAIO株式会社として設計図面を引きなおしたモデル「VAIO Pro 13 | mk2」には、アナログRGB端子と有線LAN端子を加えた。2014年当時のオフィスではアナログで接続するプロジェクターが現役稼働しており、有線LANで高速にネットワークを使いたいユーザーが多かった。変換アダプターを持ち歩くわずらわしさからビジネスパーソンを解放し、シンプルに持ち運べる機能を重視したデザインに変えていった。最新のラインアップにおいても、薄く軽い美しいデザインを担保しつつ、全モデルにUSB Type-C®端子、有線LAN端子、HDMI端子を搭載している。

ソニーからの独立時に発表した「VAIO Pro 11/13」(左)と、独立後の2015年に発表した「VAIO Pro 13 | mk2」(右)のサイドパネル。
ビジネスPCに求められる拡張性を加えた

長時間の使用に耐えるバッテリー節約設定も、法人向けPCとしてこだわっているポイントだ。世界で初めてリチウムイオン電池をPC用に商品化したのはソニーだ。ソニー時代からバッテリーを開発してきたエンジニアが、現在もセルの選定から節約設定の開発まで携わっている。VAIOのインテリジェントなバッテリー節約設定は、技術力はもちろんだが、多くの経験に裏打ちされたノウハウが詰まっている。スタンダードモデルからハイエンドモデルまで、すべての製品に内蔵している。

営業が解決できない課題は、当日中に開発陣へ
ダウンタイムを可能な限り短縮

多数のPCを管理する情報システム部門の負担を軽減し、TCO(Total Cost of Ownership)、つまり初期導入費用だけではなく運用期間中の費用も含めたコストを下げることも、法人向けPCたるVAIOの重要な使命だ。

VAIOは開発、設計、製造の組織がすべて長野県安曇野市の本社工場に集中している。新製品を開発するとなれば、開発、設計、製造、営業、カスタマーサポートなどの担当者が一堂に会して議論を始める。顧客ニーズの最新動向や、製造しやすい設計、故障しにくい構造、メンテナンスを容易にする仕様など、早い段階で情報を持ち合う。企画や設計の段階で十分な議論ができるため、製造段階での設計変更が減り、変更にかかる労力やコストを削減できる。「大手メーカーでは、各部門が地理的に離れていることが多いです。VAIOはすべてが本社工場に集中している点を、大きな強みとしています」と山野氏は述べる。

この強みが、企業ユーザーのサポートにも活かされている。普段、顧客企業に接しているのは営業と技術営業のスタッフだ。何か問い合わせがあった場合、現場ですぐに対応できればよいが、できない場合もある。その場合、VAIOでは当日中にその問い合わせの内容が本社工場の開発部門まで届く仕組みになっている。

VAIO
開発本部テクノロジーセンターセンター長
兼プロジェクトマネジメント部部長
巣山 剛志 氏

「営業スタッフが現場で対応できないような課題は、安曇野にいる開発メンバーがお客様と同じ時間帯に同じ環境を再現し、解決策を検討します」と、テクノロジーセンター長の巣山剛志氏は述べる。

再現が難しい場合には、開発メンバーが顧客の現場へ出掛け、実態を見て対応策を考える。ダウンタイムを可能な限り短縮するため、開発メンバーが協働して対応している。「複数部門の担当者が同じ社屋にいるため、何かあればすぐに議論できます。レスポンスタイムを短くして、早急に対応します」(巣山氏)。

顧客が業務で特殊なソフトウエア環境を使っていることがある。その影響で、例えば「バッテリー駆動時間が短くなる」といった問題が起きる。「当社はそれをユーザー側の問題として突き放すことはしません。お客様の特殊な環境下でも、いかにPCを快適に使ってもらえるか。お客様と話し合いながら、VAIOのバッテリー制御機能をチューニングするような対応もしています」と巣山氏は語る。

社員のエンゲージメント向上に一役
責任あるものづくりを続ける

VAIOの機能や品質が理解されるようになり、大企業を中心に採用する企業が増えている。長く愛用している企業もある。ある企業では、2016年に「VAIO S11」を一斉に導入し、その後、買い替えのタイミングで「VAIO Pro PJ」を導入した。企業イメージを向上させるスタイリッシュなデザインもさることながら、AIノイズキャンセリング機能を高く評価している。在宅勤務や会社のデスクでもWeb会議に参加する機会が増え、周囲の音が入ってしまう課題が顕在化していたが、VAIOの高精度なAIノイズキャンセリング機能によってWeb会議の快適化につながった。

リモートワークが普及する中で、在宅勤務時の社員のモチベーションが課題になっている。VAIOでは、ファインホワイトやアーバンブロンズ、ファインレッドのような、法人向けにはあまり見られないカラーを用意している。「PCのカラーを、社員の好みで選ばれるお客様もいます。自身が選んだPCなら愛着が生まれやすく、仕事のモチベーションも上がるからです」(山野氏)。

ファインホワイトやアーバンブロンズ、ファインレッドといったカラーを取りそろえる

PCは、日々の業務に欠かせない仕事の道具だ。「配布するPCを少し良くするだけで、社員を大切にする会社側の思いが伝わります。エンゲージメントの向上につながる可能性も高いです」(山野氏)。1日の仕事をどう始めるかによって、業務効率は大きく変わってくる。社員のエンゲージメントや生産性の向上を視野に入れ、VAIOを選ぶ企業が増えている。

PCだけでなく、ビジネスパーソンに快適な業務環境を総合的に提供し、仕事の生産性を高めることはVAIOの使命だ。さまざまな周辺機器を用意しているが、その最新のアイテムが2024年7月に登場。超軽量なモバイルディスプレイ「VAIO Vision+(バイオ ビジョンプラス)14P」だ。

モバイルディスプレイの新製品「VAIO Vision+ 14P」は、PC画面の上に設置することができる

カーボン製の筐体で約325gと軽く、持ち歩いてもストレスが少ない。2台目のディスプレイとしてPC画面の横に本体単体で置いて使えるだけでなく、付属のケーススタンドを利用して縦に並べることもできる。出張先のビジネスホテルや自宅など限られた空間では縦に設置することによって、広い作業スペースを確保できる。社員のモチベーションとエンゲージメントをさらに高めるアイテムとなるだろう。

「国内企業のお客様のニーズに寄り添って、責任あるものづくりをしています。今後も高品質な日本のものづくりにこだわり、企業の生産性向上に貢献します」と山野氏は語った。

日経BP Nikkei Business Publications,Inc. 日経クロステック(2024年7月29日)より転載