PC市場が低迷していた中、VAIOが好調だ。直近の2年間で、販売台数と売り上げが約2倍に急伸した。その理由は、VAIOの法人向けPCが「社員のモチベーションを高める」として、大企業にも続々と導入されている点にある。高品質な日本のものづくりが、企業ユーザーに受け入れられ、導入が加速している。VAIOはいかに社員のモチベーション向上に寄与するのか。代表取締役社長の山野正樹氏とテクノロジーセンター長の巣山剛志氏に聞いた。

ビジネスPCに特化
真に高品質な日本のものづくりでユーザー層を拡大

PCは、社員が毎日向き合う仕事の道具だ。そのため、仕事のモチベーションはPCの性能や品質に大きく左右される。CPUやメモリー、画面サイズだけではない。コロナ禍以降、在宅勤務やリモートワークが増える中で、カタログ上のスペックに表れない部分、例えば、デザインやカラー、キーボードの打ちやすさ、持ち運びの容易さなどが、PCを選定する際の重要なポイントになっている。

VAIO
代表取締役 執行役員社長
山野 正樹 氏

「業務で使用するPCには、スペック上の数字に表れない性能や品質がたくさんあります。業務の生産性に関わる仕事の道具ですから、ぜひ実際に製品を見て検討していただきたいです」と、VAIO代表取締役社長の山野正樹氏は述べる。

VAIO
代表取締役 執行役員社長
山野 正樹 氏

VAIOといえば、「ハイエンドなコンシューマー向けのPC」という印象を持つ人が少なくない。スタイリッシュだが、外資系メーカーに比べて割高だと考えている人もいるだろう。しかし、そのイメージは過去のものだ。VAIOは2014年にソニーから独立した際に、2つの大きな決断をした。1つは、ターゲットを法人向け市場に絞ること。もう1つは、国内市場に集中することだ。国内のユーザー向けに特化した商品を磨き上げてきた。

法人向けに方針を変えた後も、VAIOはハイエンドに近い製品を提供してきた。高品質なPCを望む一部のビジネスパーソンには受けたが、さらなる成長のためにはユーザー層を広げる必要があった。そこで、2023年に大変革を行った。標準価格帯のスタンダードモデルを2機種、中堅のアドバンストモデルを1機種発表し、ユーザー層の裾野を一気に拡大したのだ。「これまで『松』しかなかったラインアップに『梅』と『竹』を加えました。販売台数を増やして部品の調達力を高め、高い品質を維持したままコストダウンを実現するためです」と山野氏は語る。

VAIOの製品ラインアップ。スタンダードとアドバンストの製品を幅広く取りそろえ、ユーザー層の裾野を拡大した

標準価格帯のモデルは、ハイエンドの製品から機能や性能を引き算して造る。何を引き、何を残すのか。その判断を誤れば、VAIOの魅力が失われてしまう。同社は昨年、全社員の目線を合わせるため、VAIOの商品理念を「カッコイイ」「カシコイ」「ホンモノ」という3つのキーワードで定義した。この3つをすべて備えているのがVAIOだ。開発のあらゆる段階において、意思決定の最も重要な判断基準にすると宣言した。

「カッコイイ」が象徴するのは、姿、形、色だ。「毎朝、PCを開く瞬間ワクワクする」を合言葉に、スタイリッシュで高級感のあるデザインにこだわっている。カラーバリエーションが豊富で、若手や女性の社員にも好まれている。

VAIOのデザインは、「見た目」だけではない。実用性を備えた「機能美」を追求している。ディスプレイを開くとキーボードに適度な傾斜がつくチルトアップ構造、片手で開けるワンハンドオープンなど、毎日使ってもストレスを感じさせないデザインを目指す。社員がPCを使用する際に、気分が高揚するような効果を狙っている。

美しさと使いやすさを両立する「機能美」を追求したVAIOのデザイン

Web会議の品質を高める
「AIノイズキャンセリング機能」

VAIO
開発本部テクノロジーセンターセンター長
兼プロジェクトマネジメント部部長
巣山 剛志 氏

「カシコイ」を代表する機能は、Web会議の品質を高める「AI(人工知能)ノイズキャンセリング機能」だ。非常に高い性能を実現している。

「ノイズキャンセリング機能の核心は、マイクシーリング技術。つまり、オーディオの技術です」と語るのは、テクノロジーセンター長の巣山剛志氏だ。

2つのマイクを左右に配置し、お互いの音を混ぜることなくクリアにセンシングする「マイクシーリング」、音が来る方向を正確に識別する「ビームフォーミング」、残すべき音声を特定し、それ以外のノイズを消去する「AIノイズキャンセリング」の3つの技術で、高度なノイズキャンセリング機能を実現している。長野県安曇野市にあるVAIOの本社工場は、かつてオーディオ製品の設計、製造をしていた。その経緯から、VAIOには今でも音響にこだわりを持つエンジニアがいる。「一度体験していただければ、性能の高さを実感していただけると思います」と巣山氏は話す。VAIOのAIノイズキャンセリング機能は、Web会議のストレスを低減するため、ビジネスパーソンに人気が高い。

「AIノイズキャンセリング機能」を紹介する動画

堅牢性と壊れにくさで日常業務を支援

3つ目のキーワードが「ホンモノ」、すなわち、日本のものづくりによる高い品質だ。

品質といってもさまざまあるが、まずは「壊れにくいこと」だ。法人向けのPCは、1日8時間、週5日酷使し、4~5年は使われる。代替機を用意しているとはいえ、故障すれば業務の寸断は避けられないため、大きな痛手となる。

VAIOは、頑丈さにこだわっている。127cm落下、キーボード水かけ、加圧振動、液晶限界開き、角衝撃など、堅牢性を評価し改善していくための複数の試験を実施。業界トップクラスの頑丈さを目指している。

品質を担保するため、利用シーンを想定した厳しい品質試験を実施している

また、美しい状態で長く使えるPCを目指し、上質な材料を使い緻密な設計で、細部のつくりにもこだわっている。

例えば、キーボードだ。「キーボードには、多くの手間とコストをかけています」と巣山氏は語る。キーボードは設計を0.1mm変えただけで、「打ちやすい」の次元が変わってくる。キーピッチやストローク、打鍵感の設計にはこだわっているが、それだけではない。

「VAIOは長く使っても、キーボード上の文字が消えにくいです」(巣山氏)。一般的なPCのキートップの文字は、樹脂の上に特殊なインクで印字している。インク部分がわずかに盛り上がっているため、指で何度も触れば自然に削られ、文字が消えてしまう。VAIOはベースとなる樹脂の上に塗装し、レーザーで文字を彫り、その上にUV(紫外線)コートを施している。文字部分が盛り上がっていないので、指で触っても消える心配はほとんどない。4~5年の使用期間を終え、下取りに出す段階になっても、キーボード上の文字はクリアなままだ。

また、VAIOのパームレストは、特殊なアルマイト加工を施したアルミ合金を使用しており、毎日使用しても、かすれたり変色したりする可能性が低い。

パームレストの端部の高さを机の高さに近づけ、机との境界線を感じにくくさせる「無限パームレスト」もVAIOの大きな特長だ。手が自然に伸び、「手のひらや手首にかかる負担を大幅に軽減することで快適にタイピングできる。

「ホンモノ」としての価値は、本体の細やかな設計にも表れている。例えば、多くのPCでは、冷却用の空気を本体の底面から吸い込み、後方から排気する「底面吸気、後方排気」の機構になっている。その方が、コストと重量面で有利だからだ。しかし、底面から吸気すると机上のホコリを巻き込みやすい。また、後方から熱風を出すと、熱に弱い液晶の寿命を短くする。VAIOはコストと重量面で多少不利であっても、機能性を重視して「キーボード奥部での吸気、側面排気」の機構にこだわり、安定性の高い冷却性能を確保している。これにより、実作業においてCPUの高いパフォーマンスを体感することができるのだ。

安曇野工場での埃試験の様子。VAIOは「キーボード奥部での吸気、側面排気」によってホコリを巻き込みにくいシステムを確立している

また、Wi-FiやワイヤレスWANのアンテナは、キーボードの裏などに格納されていることが多い。しかし、VAIOの無線アンテナは液晶上部に収まっている。使用する際に最も高い位置に配置することで、電波の受信感度を高めるのが狙いだ。ビジネスパーソンのストレスは、これによって大きく下がる。経験に裏付けられた確かな設計により、仕事の道具としての「ホンモノ」を目指している。

初期導入費用だけではなく運用期間中の費用を含めた
総コストの観点から、大企業でも続々導入

壊れにくいうえに、4~5年使っても新品に近いコンディションを維持できる。これは、情報システム部門にもメリットがある。

例えば、1台のPCを1人の社員が最後まで使い続ける場合があるが、異動などでユーザーが入れ替わる場合もある。数年使用しても、VAIOはほぼ新品同様のきれいな状態であることが多く、次のユーザーに喜ばれている。

こうしたVAIOの品質は、カタログ上のスペックに表れにくく、実際に採用して初めて認識できるものが多い。単純にスペックと価格を比較すると、外資系メーカーの方が有利に見えるが、「初期導入費用だけではなく運用期間中の費用を含めた総コストを勘案し、VAIOを選ばれるお客様が増えています」と山野氏は述べる。

前編では、企業に注目され始めたVAIO製品の特長についてリポートした。続く後編では、法人向けに切り替えたVAIOの開発思想や、企業ユーザー向けのサービスなどについて聞く。

日経BP Nikkei Business Publications,Inc. 日経クロステック(2024年7月23日)より転載