Prototype Tablet PC 開発機レビュー No.01 中村 光先生、『聖☆おにいさん』を描く。

VAIOがお勧めするWindows.

中村 光先生に使っていただいたVAIO Prototype Tablet PCは「VAIO Z Canvas」として商品化が決定しました。

前編/線画を書き上げるまで

VAIO Prototype Tablet PC meets HIKARU NAKAMURA

後編/彩色からフィニッシュまで

VAIO Prototype Tablet PC meets HIKARU NAKAMURA

映像の中で中村先生が描いたイラストは、
モーニングツー2015年4号の表紙を飾りました。
http://morning.moae.jp/magazine/morningtwo

今までのノートPCだったら、たぶん線画は描けないと思う。

――今までどのように漫画の制作をされていましたか。たとえば連載は紙ですとか、使い分けをしているのかを含めてお聞かせいただけますか。

モノクロ原稿は全部アナログでやっています。カラーだけ紙に描いた線画をスキャナーで取り込んで、彩色と仕上げはデジタルでしています。

――デジタルで作画する場合の、具体的な機材やソフトを教えていただけますか。

Wacomの液晶タブレットを使っていて、今、パソコンはMac Proです。それでCorel Painterというソフトで着色、水彩ブラシを使って。ほとんど水彩ブラシしか使いませんが。水彩ブラシを使って最後に、エアブラシで仕上げておしまいです。

――以前にスタイラスのついたPCやTabletを使われた経験はありますか。

はい。VAIO Duo 13を使っていました。

――VAIO Duo 13の時と比べると、どうでしたか。

すごく良くなっていると感じます。だから逆に比較対象がモバイルPCではなくて、家に置いてあるデスクトップPCのレベルになってしまいます。筆の追従は、もうちょっとでMac Proと同じくらいになりそうなので、ついついそのスピードの要求をしてしまうという感じですね。

――まさに今、改良してそこに近づけているところです。

あと今までのVAIO Duo 13では、(CPUパフォーマンスが必要な)Corel Painterは十分に動いてなかったかなと。でも、今回は着色をPainterでできました。今までは、最初に描く輪郭線は絶対に紙でなくちゃ納得できなくて、着色はスキャンしてデジタルで彩色していたのですが、今回は全部この中で普通にできました。

自宅に閉じこもると煮詰まりがちな作業も、持ち出すと、はかどる。

――この新しいタブレットのように手軽に持ち出せるデバイスの登場で、ワークフローが変わる部分や、新しい使い方ができるようになる部分はありますか。

自宅や仕事場のような、馴染みのある環境では眠くなってしまうので、なるべくネーム、プロットなど漫画の土台みたいなところは、喫茶店など外でやるようにしています。カラーは一人で仕上げまでしているので、外に持ち出してカラーの作業ができるようになるのはすごくいいですね。スピードが全然違います。

――漫画制作の作業の大半は、外で作られていたということですか。

そうです。ネームもプロットも外でやって、下描きだけ自室に戻ってきてやっています。家でやると時間がかかるので。外で目立つとはずかしいので小さい紙に下描きもして、家に戻って拡大コピーするようにしています。

――作品に仕上げるまでのフローが本当にひとつのタブレットでできてしまうことに関して、先生ご自身が最もメリットを感じたところとは。

今回は私の仕事場で撮影していただいたので、先ほど「外でできる」っていうところは試せなかったですが、集中力が途切れない良さは実感できました。いちいち紙をスキャンしたりすると、その合間、合間に休憩を入れてしまい時間がかかったりしますけど、それが通しでできるので。自分が始めに持ったイメージが、ブレずに最後まで保てるのが良かったです。

――場所や環境に縛られずに創作ができるのは、やっぱり漫画家さんにとって大きいのでしょうか。

そうですね。特に私は、ここっていう場所が決められないんです。このお店がいいなって思っても、5日くらい続けて行くと、慣れて家と同じになってきて。クルクルクルクルいろんなお店を回っているので、このVAIOは外に持ち出すのにちょうどよく、まわりのお客さんの目も気にならない大きさで、すごくいいなと思いました。

原稿用紙と同じ感覚で、描くことができた。

――具体的な話になりますが、実際に作品を仕上げるにあたって、筆の感触はいかがでしたか。

特に、CLIP STUDIOで使っていた時、液晶の画面自体を左手でそのまま触れるので、拡大とか、画面を回すとか、あとそのまま移動するのが左手でできるのがすごく良かったですね。タブレットって、そういう機能があっても実際に機械を持って、そのまま回しちゃうことが多いのですが、これはちゃんと画面自体が回るので、普通に、タブレットを動かさないままやれたのはすごく良かったです。あと、画面のサイズの比率が原稿用紙と近いので、紙と同じ感覚で描くことができました。

――こんな使い方できるのかな、こんな使い方おもしろそうだな、こんなところに持って行ってやってみたいな、など、使い方の提案があればぜひ。

絵を描く方だと、窓の外が見えるとこに座って、街の風景や人をデッサン、スケッチしたりする方が多いと思いますが、それもできますね。画面を斜めにできるので、言い方は悪いですけど、バレずに描くことができるというか。パソコンで作業をしている雰囲気で、スケッチがいっぱいできそう。

――ちなみに、こういう道具がなかった時、先生が外でアイデアやイメージがパーっと浮かんだ場合はどうされていたのですか。

あまり外でイメージが浮かんだりするタイプじゃないのですが、スケッチブックを出すと絵を描いている感丸出しというか、ビジネス街ではちょっと場違いというか。「あいつ何やってんだ?」という見え方になってしまうので、そのあたりがパソコンだと違和感がなく助かりますね。このVAIOはデザインが大袈裟な感じじゃないので、都心でも馴染みやすくていいなと思います。

――まだまだ漫画の世界というのは紙が主流なのかなとも思いますが、こうした道具を当たり前に使う流れが漫画やイラストの世界にも来ていると感じますか。今後、先生自身がチャレンジしていきたいことなどもあれば。

若い人たちほどデジタルに親しんでいるので、すでにアナログの感じの線をデジタルで成立させてる人って多いと思います。うちのアシスタントさんでも、線画からフルデジタルでやっているから、アナログの背景とか描けない人もいます。なので、こういう小さく持ち歩きやすいPCだったら、ネームもやる人もでてくるんじゃないでしょうか。私の場合、ネームはもう少しスピードがあった方がいいから、紙でやるかもしれませんが、下描きは修正が楽なのでデジタルの方がいいなと思います。デッサンの狂いもすぐ直せる。下描きがかなり鉛筆の線に近いので、カラー原稿はフルデジタルでもあんまりタッチが変わらないかと。

――ちなみに、もっとこういうのがあればできるのに、もうちょっとこういうところに気を効かせてほしい、などの要望はありますか。

そうですね、CLIP STUDIOはすごく速くて、本当に紙に描いている感覚に近くて、これはいいなって思いました。ただ、Painterの時にはやや遅延しました。そこがCLIP STUDIOくらいの速さになったら完璧かなと思いますね。

――それは、作業が遅くなって、待つ時間があったと。

そうですね。だから、マシンスペックの話だと思いますが。他は本当に速さ以外、これという問題点はなかったです。あとは、たまにですがホームボタンを押してしまって、急に画面が変わっちゃうくらいで。CLIP STUDIOの場合は、ペンのボタンに消しゴムとスポイトが設定されていたので、Painterも同じようにできたら、もっと速く描けていいと思いました。

――Painterを使う上で、他に改良すべきところがあれば教えてください。

Painterはちょっとだけ、選択しているはずなのに選択できてない時があるのが気になりました。色をスポイトして、取って描いて、取って描いて、とやるのですけど、取れていないことがあるので、3回くらいダンダンダンとやると確実に取れるってわかって癖になりました。確実に取れたらうれしいですね。たぶん、私は筆圧が弱いのかも。もしかしたらブラシトラッキングやれば直ったのかもしれない。

画面上の色を信用しながら、描ける。

――ちなみに色の感じはどうでしたか。

色はすごくいいですね。他の今まで使っていたやつだと、ちょっとグレーがかるというか、実際の色とは違うのだろうなと思いながら描いているのですが、今回のやつはたぶん色が、ほぼ同じ。いつも描き終ってから、別のパソコンに送って色の正確なモニターで確認して、また仕上がりの色を想像しながら色調補正をするのですけど、これは色のイメージを信頼しながら描けましたね。

――余談になりますが、今回の絵について。まず、テーマをお聞かせください。

雑誌の表紙はデザイナーさんと編集さんが打ち合わせて、お題を決めていただくことが多いです。私が、表紙って言われてもピンとこないので。それで提案してもらったのが“温泉卓球”です。温泉の恋しい季節なので。スポーツをしているときにブッダは大人げなくなるっていうキャラクターなので、ちょっと表情を険しくして描きました。

――浴衣の柄がとてもかわいいなと思いました。この柄はどういったイメージでしょうか。

なんとなくピンポン台に“TENBU”のマークも入れたので、天界の備品なんだろうなっていうことで、雲の模様と空というふうに、藍色の浴衣にしてみました。

――タブレットで描くにあたり、いちばん苦労した部分はどこでしょうか。

私はいつも背景をアシスタントさんに任せているので、卓球台を描かなくてはいけないのがしんどかったですね。

――ここを見てくれっていう一番の見どころは。

浴衣の柄が気に入っています。あとはなんだろうな。本気の顔になっているブッダが一番笑うところなので、安心して変だなと思ってもらって大丈夫です。

――最後に、漫画家を目指している人に向けて一言いただけますか。

アシスタントに入るなら、デジタルができた方が良いと思います。デジタルのできるアシスタントさんを求めている漫画家さんも多くて。昔からアナログで描いていたけど、デジタルに移行したいという話をよく聞きます。もし10代ぐらいの若い方だったら、デジタルもすぐ手に馴染むでしょうから。アナログももちろん味があって、どちらもありだと思うのですけど、ある程度デジタルもやっていた方が後悔しないかなと。私は、もうちょっとやっておけばよかったかなと思っています。カラーだけはずっとデジタルでやっていたので、もうアナログじゃできないくらいですけど。

担当編集者の田渕浩司氏にもお話をうかがいました

ハイスペックなマシンじゃないと、紙には対応できない。

――中村先生に新しいタブレットを使って1から全部仕上げていただいたのですが、編集者の立場から見て、 紙からデジタルの作業に移行することで、漫画制作のフロー改善など期待するところはありますか。 または、すでにこうなり始めてきたなといった実感があれば。

田渕氏:漫画編集者の見る悪夢で「原稿を失くす」というのがあるんですが、デジタルだと、その心配がなくなるので、すごくありがたいです(笑)。打ち込みの音楽がどんどんアコースティックに近づいていったり、ビデオで撮った映像がフィルムと変わらなくなるみたいに、デジタルとアナログの差が、マシンスペックが良くなっていくに従い埋まっていくのだなと実感しました。中村さんに限らず、みなさんそうなのですけど、絵のうまい方は紙で描いても、デジタルで描いても良いものになる。頭の中にちゃんとイメージがある人は、道具が変わってもアウトプットされたものは変わらないんだなと。あとは、漫画って紙とペンがあればどこでも描けたはずのものが、連載のペースが月刊から週刊になったりしていく中で分業化が進んできた。それがデジタルの時代になると機材に囲まれて、漫画家さんが仕事場に縛り付けられるようになっている。それが、タブレットでこういう高性能なものがあると、リアルでも気持ちでも、作家さんのフットワークが軽くなるんじゃないかと思って期待しています。我々は、資金や頭数ではハリウッドなんかと全然勝負できないので、作家個人もしくはごく少数の人間が関わって、フットワーク軽く、いろんなものを生み出していかないと。そこが漫画の良さだと思うので。

――やや大きな話になりますが、このタブレットのような道具があることによって漫画家さん、編集さん、出版社さん、それから最終受益者である僕ら読者…の流れに対して、もたらすものとは何でしょうか。

そうですね、まだ皆さん、タブレットのおもしろい使い方など発明している途中だと思うので、そんなに大きな話は思いつかないのですが。例えば、色のキャリブレーションで言えば、漫画家さんはこれを持って印刷所に行って、その場で合わせるみたいなことができますよね。我々が撮影した資料写真をすぐに漫画家さんに送り、それを下描きにして描いてもらうっていうことも、他に何もない環境でも可能になるかもしれません。

――以前に、直接打ち合わせをする他に、アイデアをチャットで送って…といったやり取りをされていましたよね。

田渕氏:参考になる画像やサイトを、簡単に共有できるのはメリットですね。このタブレットを使ってビデオチャットで打ち合わせもできると思います。あとはカメラの性能がわからないのですけど、これ自体で資料写真をそのまま撮って、すぐ使うということもできますね。

――ちなみに今、漫画界で、既にフルデジタルで全部作っている方もいらっしゃるのですか。

田渕氏:もちろんいらっしゃいます。レンダリングしたものを基にして、それを背景に使うなど、いろんなチャレンジをしてる作家さんもいます。ただモーニングはベテラン作家が多いので、アナログが主流です。週刊連載をやっていると移行するタイミングがない上に、現状で良い作品ができているのなら無理に移行しなくても良いですしね。新人の方はデジタルも増えてきていますが、作品が面白ければ、我々編集者はフローは気にしません。ただ、モニタではそこそこ見られる絵を印刷すると、恐ろしくクオリティが低くてびっくりすることはあります。しまった、印刷しちゃいけなかったんだって(笑)。紙に印刷された時に上手い下手って如実に出ますし、連載はスピードも大切なので機材のスペックは高いに越したことはないでしょうね。

(2015年6月17日掲載)

中村光(なかむらひかる)

中村光(なかむらひかる)

1984年4月21日生まれ、静岡県出身。血液型O型。2001年「月刊ガンガンWING」から『海里の陶』でデビュー。そして02年、デビュー作を含めたコメディ短編集『中村工房』が発売される。04年より電波系ラブコメディ『荒川アンダー ザ ブリッジ』を「ヤングガンガン」で連載! 06年からは『聖☆おにいさん』をモーニング増刊「モーニング・ツー」で連載開始し、新たなジャンルを拓く。


VAIO Z Canvas
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