Inter BEE 2014にVAIO Prototype Tablet PCが登場した理由

VAIOがお勧めするWindows.

Inter BEE 2014に出展したVAIO Prototype Tablet PCは「VAIO Z Canvas」として商品化が決定しました。

2014年11月19日、毎年恒例の国際放送機器展Inter BEE 2014が開催された。この展示会は、映像のプロフェッショナル機材が一同に揃う国内最大級のイベントで、今年がちょうど開催50周年に当たる。出展者数も過去最多となる977社、そして来場者数も過去最多となる37,959人となり、人気のブースは満員電車並みの混雑である。

カメラメーカーのキヤノンは、以前から放送用レンズを手がけており、Inter BEEではもはやお馴染みのメーカーである。最近はEOSの技術を映画レベルにまで昇華させたCINEMA EOS SYSTEMシリーズを充実させてきた。レンズも映画用を始め、多くのバリエーションを生みだし続けている。撮影に携わるプロなら、まず「キヤノンブース参り」は欠かせない。

Inter BEEでも大盛況のキヤノンブース

Inter BEEでも大盛況のキヤノンブース

そんなキヤノンブースのほぼ中央に、VAIO Prototype Tablet PCが展示されていた。なぜキヤノンにVAIOが? さらに、なぜ映像のプロフェッショナル向け展示会にVAIOが? 多くの人がそんな疑問を持ったことだろう。

現在デジタルシネマでは、RAW収録を行うことが多くなってきている。RAW収録とは、カメラのセンサーから出た信号をそのまま収録する方法で、デジカメにおけるRAW撮影と考え方は同じである。

ただRAWで撮影した映像は、人間の目からすると黒浮きして低コントラストで色味も鈍い映像なので、撮影現場で仕上がりがイメージできない。したがって映画の撮影現場では、バンやトラックに色をいじるためのスタジオ設備を詰め込み、車の中で最終の色味がイメージできるようなシステムを作って、乗り入れてくる。単に標準的な色味に戻して再生するだけでも、車にデスクトップPCやモニター一式を積んで運んでこないといけないわけである。これは大変な手間とコストだ。

VAIOは、この問題を解決する。今回はキヤノン株式会社 イメージコミュニケーション事業本部の恩田 能成氏、そしてVAIO株式会社 商品ユニット3 部長 宮入 専氏に、Inter BEE出展の狙いについてお話を伺った。

爆発的なパフォーマンスを発揮

(左)キヤノン株式会社 イメージコミュニケーション事業本部 恩田 能成氏(右)VAIO株式会社 商品ユニット3部長 宮入 専氏

(左)キヤノン株式会社 イメージコミュニケーション事業本部 恩田 能成氏
(右)VAIO株式会社 商品ユニット3部長 宮入 専氏

小寺:今回のInter BEE 2014で出展された内容をご説明いただけますか。

宮入:まず我々が試作しているVAIOタブレット、これを使って、キヤノンさんのカメラで撮影した4KのRAWの映像を、リアルタイムで現像しながら再生する、こういうデモをご覧いただいています。4KのRAW現像処理は非常に重くて、これまでタブレットどころかノートPCでもどうか、というところだったんですが、ポストプロダクション処理の重さとか状況をご存じの方には、まず驚いていただける。「あ、そうなんだ、みんなこれで困ってたんだ」というのがわかったことが、一つ大きかったですね。

一方で現状をご存じない方は、ただムービーが普通に再生されているだけなので、技術的背景を説明して、データのサイズを説明して、何度も話していくとやっと少しおわかりいただけるかな、というところがありました。あとは「VAIOってWebでしか買えないんですよね、もう買えますか」とか、「今すぐ欲しい」とおっしゃっていただける方も何名かいて、非常にありがたいなと思っています。

4Kの映像をリアルタイム現像しながら再生

4Kの映像をリアルタイム現像しながら再生

小寺:ではその技術的な背景を教えてください。

宮入:VAIOタブレットに搭載している、第4世代Intel® Core™ プロセッサー内蔵GPUのIntel® Iris™ Pro Graphicsというのは、グラフィックスのエグゼキューションユニットを40個フルに使って動かせるという、非常にパワフルなGPUなんです。かつ、CPUのプロセッサーとパワーシェアするんですよ。だから双方を使って非常に効率良く動かせる、というところがすごい。

アプリケーションとかエンジンのカスタマイズといったチューニングをしていくことによって、効率良くパフォーマンスを引き出せるプロセッサーだと思っています。そういった点で我々も、無理矢理と言っちゃあれですけど、タブレットPCというフォームファクターにクアッドコアを、Iris™ Proを入れたい、と思った理由はやっぱりそこです。お客様が生産性を上げて、クオリティの高いものを作り出そう、としたときには欠かせないプロセッサーだと思います。これはもうU-Processor Line(Ultrabook向けプロセッサー)ではあり得ない次元だと思いますね。

小寺:これまでIntel® Iris™ Pro Graphics搭載のCPUを採用しているのって、いわゆるハイエンドノートですよね。それがタブレット型に入ったのはVAIOが初めてなんですか?

宮入:そういうことですね。ノートPCに採用が始まって、ゲーミング用のラップトップPC、みたいなものが出始めた。ただあれはどうしてもゲームを消費する側ですね。クリエイションツールとして考えたときには、やはりこういったタブレット型が最適ではないか、というのが我々の考えたことです。

キヤノンとVAIOがなぜ一緒に?

キヤノンブースの中央にVAIOが並ぶ

キヤノンブースの中央にVAIOが並ぶ

小寺:今回のInter BEE 2014で、キヤノンのブースにVAIOの試作モデルがずらりと並ぶというのは、ソニー時代には考えられなかった画期的なことなんじゃないかと思うんです。どうして両社が一緒にやることになったんでしょう。

恩田:我々はデジタルシネマ向けの4Kカメラを作っているわけですが、プロの現場では必須の、動画の4K RAWの処理が重すぎる、というところが、普及へ向かうネックの一つとなっています。我々も簡単にRAWの動画をリアルタイムで現像しながら再生できる、「Cinema RAW Development」というソフトウェアを無償配付していますが、なかなか手軽に現場で再生するという環境が作れない。

で、インテルさんの第4世代Core™プロセッサーに搭載するIris™ Pro Graphicsの計画が立ち上がった当初から、我々も技術の方と直接やらせていただいて、それに最適化したCinema RAW Development 1.3を作ったんです。ただその一方で、Iris™ Proを搭載しているPCが、今年のNAB(2014年4月)の段階では、インテルさんのリファレンスボディなど、対応PCの選択肢が少ない時期でした。

小寺:ターゲット層も異なってましたしね。

恩田:そこにちょうど、VAIOさんのタブレットがIris™ Pro Graphicsを搭載するというお話が聞こえてきたんです。VAIOさんならインパクト的にも大きくて、うちの社内でも面白いじゃないか、ということになったわけです。

4Kリアルタイム現像を可能にしたCinema RAW Development 1.3

4Kリアルタイム現像を可能にしたCinema RAW Development 1.3

小寺:なるほど。これまでのカメラメーカーって、シネマの現場でカメラが使われることになっても、そこからのアフターワークというのはお客様にやっていただくところなので、カメラメーカーはそんなに踏み込んでこないところだと思うんですよね。それを一歩踏み出して、せめてオンセット(撮影現場)で現像後の映像が見られるところまで面倒を見るということですか。

恩田:そうですね。もともとの発想は、フィルムからデジタルに切り替わっていく中で、ポストプロダクションの方がどんどんオンセットのほうに近寄ってくる。一方でRAW撮影の発想は、撮ったら終わり、というところからスタートしてるんです。しかしそこを繋ぐ何かを作らないと、4Kデジタルシネマカメラである「EOS C500」のコンセプトが生きないな、という感じがあった。それで今回のこういうコラボレーションに繋がってきた、ということです。

小寺:これまでVAIOの新タブレットのデモを拝見していると、ペンで描けるというところから、どうしても手描きで図面や絵を描く人に向けての訴求に見えていたんです。しかし今回のデモでは、相当重たい表示処理をどこでも持って行ける、というところにフォーカスされていた。そういう使い方って、最初から想定されていたんですか?

宮入:これまではずっとソニーのVAIOとしてペン入力をやってきてましたので、ペンを含めて活用できるクリエイターをファーストのターゲットにしようと考えていました。主には、フォトグラファーの中でもレタッチまでするようなクリエイター、イラストレーター、漫画家さん、あとグラフィックデザイナー。このへんを主にフォーカスした作り込みというのをしてきたんです。

けれども今回キヤノンさんからお話をいただく中で、このIntel® Iris™ Pro Graphicsを搭載しているH-Processor Lineって、映像の制作現場でも、このモビリティがあることで革新できるということを、しっかり認識できるようになりました。

小寺:なるほど。

宮入:まだ4K・8Kといった映像の世界ではパフォーマンスが足りてませんし、カラーもPCはまだ8bitの世界にいるわけです。ここから10bit、12bitになっていかないとキヤノンさんの期待にも応えられないんですけど、そういったことをわかっていながら、将来像をきちんとフォーカスするいい機会だと思っています。

小寺:ところで実際こういうワークフローって、どのカメラメーカーでも困ってるはずですよね。ここでキヤノンと組んだのは何か理由があるんですか?

宮入:私がこのインテルさんのエンジンのデモを一番最初に見たのは昨年末近かったと思うんですけど、そのとき我々はまだRAWの動画までは考えていませんでした。ただ、スチルの現像がものすごく速かったんですね。Lightroomよりも速い、これは凄いんじゃないか、と。

例えばプロの方って、1000枚とか撮られるじゃないですか。あれを突っ込んで、凄いスピードで現像してくれるので、これは可能性あるよね、というような話をしていたのが昨年末なんですね。

小寺:そのときすでにキヤノンは、Cinema RAW Development 1.3に着手してたと。

恩田:逆に私たちはカメラとレンズしかないところなので、ソフトも結局、どこかのPCメーカーと組まないといけないというところはあります。

小寺:組むにあたり、やっぱり国内メーカー同士、というところはあったんですか?

恩田:そうですね。そこが密接にできた、というのはあると思います。実はインテルさんの開発チームをまとめてくださったのも、アリゾナにいる日本人の方で、その方とうちの開発が直接、非常に密にやってきたというのが実現の近道だった、というのはありますね。

VAIO、その未来の姿

小寺:実際にInter BEEの会場で、こうやって大勢の方々に見ていただいて、手応えはいかがですか。

宮入:先ほどもちょっと来場者の方とお話したんですけど、「ああ、もう全然コンシューマじゃないですか、これで再生できちゃうんですか!」って驚いてらっしゃいました。「ばりばりのプロ用だと思ってました」っておっしゃっていて。もうそれこそ「SSDのスロットが付いてて、HD-SDIのインターフェース付いちゃってんじゃないの」ぐらいのイメージで来られていて。

小寺:いわゆる映像専用機っぽい作りなのかと。

宮入:ええ。でもひょっとしたら、そういう道も我々にはあるのかもしれないな、とも思っています。

小寺:いや、そうですよ。プロ用メディアが直接挿せて、そこから再生したい、というニーズは当然ありますよね。ここまで動いているのを見せられたら、これをベースにした映像用マシンが欲しいという意見は当然出てくるでしょう。

宮入:道のりは険しいですよね。ディスプレイパネルも10bitにしていかなきゃいけないし、撮影現場のタフな環境に耐える作りにもしないといけません。そこの信頼性をどこまで上げられるか、というのが今の課題になっているところだと思いますね。まだまだやることはいっぱいあります。

(2015年2月20日掲載)

テクニカルライター/コラムニスト 小寺信良

テクニカルライター/コラムニスト 小寺信良

テレビの編集者として18年間、バラエティ、報道、コマーシャル映像制作などを手がけたのち、文筆家として独立。コンシューマAV機器から放送機器、エネルギー問題まで幅広い執筆・評論活動を行う傍ら、インターネットにまつわる諸問題の解決にも取り組む。一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事。インプレスAV Watch、ITmedia+D Mobile、スマートジャパン、価格.comマガジン、PRONEWS、家電批評など連載多数。


VAIO Z Canvas
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