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ガラパゴスにこそ勝機あり、VAIOとモノづくり企業たちの挑戦(Vol.3)

日経ビジネスオンライン AD Specialより転載(2016年6月28日~7月27日掲載)

この10年で最も様変わりした市場のひとつがPC市場だろう。世界中の大手PCメーカーで撤退や再編が相次ぎ、その迷走が止まらない。そのなかで、大企業の部門から、わずか240人となって新たな道を踏み出したVAIO株式会社。そのベンチャーとなった新生VAIOが、最初に市場投入した製品が「VAIO Z」だ。このVAIO Zは、国内で大きな反響をもって迎えられ、それを求める声が、海外にも広がっている。今PC市場を席捲するのは、安くて手軽な、言ってみればそこそこの商品。しかし、VAIO Zが目指したのは、それとは真逆のパフォーマンスやモノとしての美しさ、使い心地、バッテリーのもち、省エネ性能など、どれをとってもプレミアムなPCである。そして、多くの高い技術力を誇る日本のモノづくり企業が、この考えに賛同し開発に協力した。VAIOはコモディティ化したPC市場に、なぜ敢えてこのようなプレミアムPCを投入したのか?そして、多くの日本のモノづくり企業が開発に賛同したのはなぜか?その秘密を徹底検証する。

高い志とオールジャパンの技術力で
最高峰のPCを求め続ける

圧倒的な高密度実装技術により性能とデザイン、モビリティを両立

優れた快適性を実現するためにはパフォーマンスも重要だ。しかし、ノートPCの場合、デスクトップPCと比べるとどうしても熱処理が大きな壁となり、性能の高いCPUを使うことは難しい。この発熱量を測る目安がTDP(熱設計電力)である。一般的なモバイルノートのCPUは15W程度といわれる中、VAIO Zは28WのCPUを採用している。つまり、通常のほぼ倍の発熱量の、高性能なCPUを採用しているということ。これだけ放熱するCPUを、薄くコンパクトなボディの中で安定して稼働させるためには、内部の基板設計と放熱設計が極めて重要だ。そこで威力を発揮したのが、ソニー時代から培ってきた高密度実装技術である。

PCの基板は、多くの電子デバイスの集合体だ。各パーツは高速信号に対応した通信線によって結ばれているため、配線の制約から、隣のパーツとの距離が決まってしまう。それよりも狭くすると誤動作の原因となる恐れがある。VAIO株式会社 ビジネスユニット3 ユニット長 宮入専氏は、「各メーカーの言う通り実装していては、我々が求める薄くてコンパクトなボディは実現しません。そこで、10年以上前からどこまで部品間の隙間を埋められるか、独自の研究を重ねメーカーと交渉したり、共同検証を実施するなど、高密度実装技術を磨いてきました」と語る。

基板の小型化は内部にスペースを生み、大型バッテリーを搭載する余裕が生まれた。その結果、最大バッテリー駆動時間は、クラムシェルモデルで約27.0時間、フリップモデルで19.7時間と、丸1日フル稼働させても電池が切れない安心感につながっている

もうひとつの重要な要素である放熱設計は、冷却ファンとヒートパイプが要。高効率、高信頼性の冷却ファンは、厚さ4mm以下という超薄型。しかも、2基のファンの翅(はね)の枚数を変えることによって動作ノイズを抑制している。また、電子部品(IC)から発せられる熱を放熱部(冷却ファン)に伝えるヒートパイプは、極めて薄型ながら、高い熱運搬能力を実現している。このヒートパイプを担当したのが、フジクラである。

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レスポンスとモビリティを両立させたZ ENGINE

部品間ギャップ、配線間長をギリギリまで追い込み、顕微鏡なしでは部品が判別できないほど小さな部品が精緻に並ぶ。

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1秒でも速い反応で人間の思考を妨げない

インテル® Iris™ グラフィックスを搭載したTDP28Wの高性能CPUに加えて、第二世代High speed SSDにより圧倒的パフォーマンスを実現。

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充電を忘れるくらい減らないバッテリー

高密度実装技術がもたらしたスペースに、58Whの大容量バッテリーを搭載。丸1日使ってもバッテリーが切れないPCを実現した。

目標値の引き上げにも新たな工夫で対処

株式会社フジクラ/極薄高効率ヒートパイプ

PCの安定稼働に欠かせない熱対策。その中心を担うヒートパイプは、フジクラとの共同開発だ。銅のパイプ内を減圧し作動液体を封入することで、極めて薄いボディの内部で高い放熱性能を実現した。「ヒートパイプは薄型になるほど内部空間が減少するため、熱輸送量が低下します。そこで、薄型用に新型の内部構造を開発しました。しかし、途中で冷却目標値が引き上げられ、それをクリアするのにかなり苦労しました。苦労はしましたが、Z®ENGINEのコア技術に当社の製品が使用され、満足しています」(株式会社フジクラ サーマルテック事業部 開発部 グループ長 川原洋司氏)

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高性能CPUを搭載した高密度実装基板の安定性能に欠かせない、フジクラの薄型ヒートパイプ。

日本のユーザーのために日本で開発・製造

現在、VAIO Zの開発と生産は、すべて長野県の安曇野工場で行われている。開発と製造が極めて近いため、組み立てを考えた設計を行うことで、効率よく高精度な組み立てが可能となっている。VAIOはデザインにこそ、最大のこだわりを持つイメージがあるが、実は決してデザイン先行で製造しているわけではないと宮入氏は次のように語る。「作りたいイメージと加工方法を組み合わせてデザインを決めていきます。制約条件をのんだうえでデザインをしていくので、たとえ壁にぶつかっても答えが見つかるのです」。

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VAIO Zは、設計から組み立て、検査までの全工程が、本社を置く長野県の安曇野工場で行われる。

驚くべきは、検査工程の入念さだ。VAIOのPCはすべて、ホコリ、落下、振動、静電気、衝撃、コネクタ強度など、16もの品質試験を実施している。なかには、メモリーカードや各種コネクタ類を間違って接続した場合を想定した検証をする「いじわる試験」といった、ユーザー起因の問題にも対応できるような試験も行われている。さらにVAIO Zはこれらの試験に加え、加圧振動試験、本体ひねり試験、90cm落下試験、フリップ引っぱり試験※など6つの試験を追加検証し、より高い堅牢性を追求している。

高い志と地道な開発・製造により、大きな評価を得たVAIO Zは、それ自体の販売も好調だが、話題となることでのパブリシティ効果や、他の製品を含むビジネス全体への波及効果も大きいという。「VAIO Zで開発した技術を他のラインにも展開することで、VAIO全体の品質とブランド向上にも役立っています。たとえば、好評のキーボードは、S Lineにも展開しました」と宮入氏は語る。

VAIO株式会社 ビジネスユニット3
ユニット長 宮入専氏

日本の技術力の結晶が世界へと飛翔をはじめた

VAIO Zの独自性を際立たせている性能と軽さ、薄さを可能にした主要パーツは、多くの日本企業との共同開発で作られた。ここまでに紹介した5社の他に、極めて小型・薄型で信頼性が高く、ノイズを減らした流体動圧軸受ファンは日本電産との共同開発。また、高画質な画像を映し出す裏面照射型CMOSセンサーはソニー製、ディスプレイを守る強化ガラスは旭硝子製など、モノづくりを極めた日本企業が多数参加している。

このように、VAIO Zの性能や美しさを実現するために欠かせない重要な提携先が日本企業に集中したことについて宮入氏は、「日本で、日本のお客様のために作るPCですから、できれば日本の部品で作りたいと思っていました。そのうえで最適なものを探した結果、最終的に日本企業が残りました」と語っている。

当初日本だけをターゲットに開発したVAIO Zだが、海外からの引き合いが強く、既に米国とブラジルでのビジネスが始まっている。「米国はダイレクト販売、ブラジルはパートナーによる委託販売と形態は異なりますが、いずれも取り扱わせてほしいというオファーをいただくようになりました。しかし、数を追い求め始めたら、また以前と同じことになってしまいます。それぞれの国のお客様としっかり向き合って、着実にビジネスを進めたい」(宮入氏)。

PCがコモディティ化し、単なる道具となってしまった今、「快適さ」を追求したVAIO Zは、国内だけでなく、海外からもその価値を認める人に受け入れられ始めている。そのような人々のニーズをくみ取り、さらに一歩進んだ提案をしながら、VAIO Zはこれからも進化を続ける。

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